アルツハイマー病の診断は,いま大きく変わっています.

以前は,もの忘れがあるかどうか,日常生活に支障があるかどうか,画像で萎縮があるかどうか,というように,症状や臨床経過を中心に診断していました.

もちろん,それはいまでも大切です.
でも近年は,アルツハイマー病を「症状」ではなく,「生物学的な病態」として捉える方向に進んでいます.

アミロイドβがあるのか.
タウがどこまで広がっているのか.
神経変性がどの程度進んでいるのか.
そして,その人はアルツハイマー病のどの段階にいるのか.

このような問いに答えるために,PETや脳脊髄液バイオマーカーが使われてきました.
しかし,PETは高価で,実施できる施設も限られます.
脳脊髄液検査は有用ですが,腰椎穿刺が必要です.

そこで大きな期待を集めているのが,血液バイオマーカーです.

今回紹介する論文は,この流れの中でもかなり重要な研究だと思います.
タイトルは,“Plasma eMTBR-tau243 and %p-tau217 for Biological Staging of Alzheimer Disease” です[1].
2026年に JAMA Neurology に発表された研究で,血液中の %p-tau217 と eMTBR-tau243 を組み合わせることで,アルツハイマー病の生物学的ステージを推定できるかを検証しています.

この論文のポイントは,単に「血液でアルツハイマー病を診断できるか」ではありません.

もう一歩進んで,
血液でアルツハイマー病の進行段階まで見られるのか
を問うているところです.

アルツハイマー病の病態は,単純に「ある・ない」だけではありません.
アミロイドだけが陽性の段階.
タウが内側側頭葉に限局している段階.
タウが側頭葉新皮質へ広がる段階.
さらに広範な新皮質へタウが広がる段階.

このように,アルツハイマー病は段階的に進んでいきます.
2024年のAlzheimer’s Associationの改訂診断・ステージング基準でも,アルツハイマー病をアミロイドとタウを中心に生物学的に定義し,病期を整理する枠組みが示されました[2].

この論文では,そのPETベースのステージングに近いものを,血液で再現できるかを調べています[1].

使われた血液バイオマーカーは2つです.

一つは,%p-tau217 です.
これは,タウ217番目のスレオニンがリン酸化された割合を,非リン酸化タウに対する比として表したものです.
%p-tau217は,アルツハイマー病の血液バイオマーカーの中でも非常に高性能で,アミロイド病理やタウPET陽性を高い精度で反映することが示されてきました[3].

ただし,%p-tau217には限界もあります.
早期のアルツハイマー病病理を捉える力は強い一方で,病気が進んだ段階で,タウがどこまで広がっているかを細かく分けるには不十分なことがあります[1].
つまり,%p-tau217は「アルツハイマー病らしい病理があるか」を見るには強いけれど,「どのステージか」を細かく見るには限界があるかもしれません.

そこで重要になるのが,もう一つのマーカーである eMTBR-tau243 です.

MTBRは,microtubule-binding regionの略です.
タウタンパク質の中で,微小管に結合する領域を指します.
アルツハイマー病の神経原線維変化,つまりタウ凝集体では,このMTBR領域が重要な構成要素になります.

これまで,CSF MTBR-tau243は,タウPETやタウ凝集病理と強く関連することが示されてきました[4].
その後,血漿中でもendogenously cleaved MTBR-tau243,つまりeMTBR-tau243を測定できるようになり,血液でタウ凝集病理を反映しうるマーカーとして注目されました[5].

この研究では,%p-tau217とeMTBR-tau243を組み合わせています[1].

この組み合わせが重要です.
%p-tau217は,どちらかというとアミロイド関連の早期変化に強い.
eMTBR-tau243は,より進んだタウ凝集病理に強い.
つまり,この2つを組み合わせることで,アルツハイマー病の「始まり」と「進行」を同時に見ようとしているのです.

研究に使われた主なコホートは,Swedish BioFINDER-2です[1].
BioFINDER-2には872人が含まれていました.
内訳は,認知機能正常の参加者383人,MCI 182人,AD dementia 151人,非AD神経変性疾患156人です.
平均年齢は72.8歳,女性は50.2%,APOE ε4保因者は59.2%でした.

さらに,独立した検証コホートとして,Washington UniversityのKnight Alzheimer Disease Research Center,Knight ADRCの156人が使われました.
加えて,Knight ADRCの一部では剖検病理データもあり,80人で血液ステージと実際の脳病理との関係が調べられました.

この点が非常に重要です.

PETと血液の比較だけではありません.
血液で作ったステージが,臨床症状,PET,縦断的なバイオマーカー変化,そして剖検病理とどの程度合うのかまで見ています.

研究では,PETベースのステージを4段階に整理しています.

Stage Aは,アミロイド陽性だがタウPETは上がっていない段階です.
Stage Bは,タウPETが内側側頭葉に限局している段階です.
Stage Cは,タウPETが内側側頭葉を超えて側頭葉新皮質に広がる段階です.
Stage Dは,さらに高度で広範な新皮質タウ蓄積を示す段階です.

このPETステージを,血漿%p-tau217とeMTBR-tau243だけでどこまで再現できるかを検証しました.

結果はかなり明確でした.

まず,%p-tau217はPETベースのステージが進むにつれて段階的に上昇していました.
一方で,eMTBR-tau243は早期ステージではあまり上がらず,主にStage CとStage Dで上昇していました.

具体的には,PETで中間ステージにあたるStage Cの人では,128人中92人,つまり72%でeMTBR-tau243が異常値を示していました.
さらに,Stage Dでは83人中83人,つまり100%でeMTBR-tau243が異常でした.

これは,eMTBR-tau243が高度なタウ病理を反映していることを示す重要な結果です.

図1では,この2つのバイオマーカーの役割の違いが分かりやすく示されています.
%p-tau217は早い段階から上昇し,ステージが進むにつれて増えていきます.
しかし,中間から進行期では値が重なりやすく,それだけではStage CとStage Dを分けにくいように見えます.
一方,eMTBR-tau243は,より進んだタウ病理の段階で上がってくるため,%p-tau217だけでは見えにくい進行度を補っています.

つまり,%p-tau217だけでは「アルツハイマー病病理がある」ことは分かっても,「タウがどこまで広がっているか」を十分に分けられない可能性があります.
そこにeMTBR-tau243を加えることで,ステージ分類がより細かくなるのです.

実際,血液ベースのステージングモデルは,PETベースのステージと高い一致を示しました.
BioFINDER-2全体では,PETステージとの一致を示すC indexは0.91,95%信頼区間は0.90から0.92でした.
臨床ステージとの一致も高く,C indexは0.84,95%信頼区間は0.82から0.86でした.

さらに,独立したKnight ADRCコホートでも結果は再現されました.
PETステージとのC indexは0.91,95%信頼区間は0.87から0.94でした.
臨床ステージとのC indexも0.86,95%信頼区間は0.82から0.89でした.

この再現性は重要です.
BioFINDER-2だけでうまくいったのではなく,別の施設,別のコホートでも同じように高い一致が示されたからです.

図2では,血液ステージが進むにつれて,実際のPET画像上のアミロイドとタウの分布も進行していくことが示されています.
血液Stage 1では,すでにアミロイドPETの上昇が見られます.
血液Stage 2では,タウが内側側頭葉に出てきます.
血液Stage 3では,タウが側頭葉新皮質へ広がります.
血液Stage 4では,タウの広がりがさらに強く,広範になります.

これは,血液ステージが単なる統計モデルではなく,実際の脳内病理の広がりをかなり反映していることを示しています.

さらに,図3では,血液ステージと連続的なAD関連バイオマーカーの関係が示されています.
血液ステージが上がるにつれて,Aβ-PET,tau-PET,認知機能,皮質厚などが段階的に変化していました.

横断的には,ステージが進むほどAβ-PETとtau-PETが上がり,認知機能は低下し,皮質厚も低下していました.
縦断的にも,Aβ-PETの変化率は逆U字型を示し,Stage 2で最も高くなっていました.
これは,アミロイド蓄積がある段階で加速し,その後プラトーに近づくという,これまでの知見と合っています.

一方で,tau-PET,皮質萎縮,認知機能低下は,より後期ステージで強く進行していました.
特にStage 4では,側頭葉新皮質tau-PET,皮質萎縮,MMSEやmPACCの低下が最も大きくなっていました.
内側側頭葉tau-PETについては,Stage 3とStage 4で変化率に大きな差がなく,この領域ではタウが飽和している可能性も示唆されています.

この結果は,アルツハイマー病の時間軸を考えるうえで非常に分かりやすいです.

まず,アミロイドが上がる.
次に,タウが内側側頭葉に出てくる.
その後,タウが側頭葉新皮質へ広がる.
さらに進むと,タウの広がり,萎縮,認知機能低下が強くなる.

この流れを,血液バイオマーカーでかなり再現できる可能性が示されたのです.

特に重要なのは,剖検病理との対応です.

Knight ADRCでは,80人に剖検病理データがありました.
血液採取から死亡までの平均期間は4.9年でした.
このサブサンプルで,血液ステージと実際の脳病理を比較しています.

その結果,血液ステージはAlzheimer Disease Neuropathologic Change,ADNCと強く一致していました.
ADNCに対するAUCは0.96,95%信頼区間は0.91から1.00でした.

また,血液Stage 2未満の人では,19人中13人,つまり68%がADNC陰性,またはlowでした.
血液採取から剖検まで5年未満に限定すると,この割合は9人中8人,89%に上がりました.

一方で,血液Stage 3または4の人では,50人中44人,つまり88%がCERADでmoderateまたはfrequentでした.
また,50人中41人,82%がBraak stage VまたはVIでした.

これは非常に強い結果です.
血液で推定したステージが,PETだけでなく,実際の剖検病理とも対応していたからです.

図4では,血液ステージが上がるにつれて,ADNC,CERAD,Braak stagingの重症度が高くなる様子が示されています.
これは,血液バイオマーカーが「脳の中で本当に起きていた病理」とつながっていることを示す重要な証拠です.

この研究で特に印象的なのは,%p-tau217単独モデルとの比較です.

%p-tau217だけを使ったモデルも,もちろんかなり高性能です.
しかし,%p-tau217だけでは,中間ステージであるStage Cを十分に分類できませんでした.

具体的には,PETでStage Cにあたる人を正しく血液Stage 3に分類できた割合は,%p-tau217単独モデルでは9.4%でした.
一方,%p-tau217とeMTBR-tau243を組み合わせたモデルでは44.0%に改善しました.
また,%p-tau217単独モデルでは血液Stage 3に分類される人が25人しかいなかったのに対して,2バイオマーカーモデルでは120人がStage 3に分類されました.

これは臨床的にも重要です.

Stage Cは,タウが内側側頭葉を超えて側頭葉新皮質へ広がり始める中間段階です.
この段階は,治療選択や臨床試験の対象者選定において重要な可能性があります.
論文中でも,このような中間ステージの人たちは,現在の抗アミロイド治療において利益とリスクのバランスが比較的よい可能性があると述べられています.

実際,抗アミロイド治療では,タウ病理の進行度によって治療効果が異なる可能性があります.
TRAILBLAZER-ALZ 2試験では,ドナネマブの効果がタウ病理の負荷によって異なることが示されており,病期に応じた層別化の重要性が高まっています[6].

つまり,血液でStage Cのような治療上重要な時期を見つけられるなら,臨床試験や治療選択に大きく役立つかもしれません.

ただし,この研究は,血液検査だけでPETを完全に置き換えられると言っているわけではありません.
ここは慎重に読む必要があります.

著者らも,この血液ステージングはPETベースのステージングの近似であり,完全な代替ではないと述べています[1].
特に,隣り合うステージの分類精度には限界があります.
つまり,血液で大まかな病期を層別化することはできても,個々の患者さんに対して精密にStage BかStage Cかを決めるには,まだ改良が必要です.

また,eMTBR-tau243の測定には,現時点では免疫沈降と質量分析が必要です.
これは高精度ですが,すぐに一般臨床で広く使える方法ではありません.
比較的大きな血漿量も必要であり,検査の普及にはまだ技術的な課題があります.
今後,免疫測定法など,より使いやすい測定系への展開が必要です.

さらに,この研究は主にBioFINDER-2とKnight ADRCという研究コホートで行われています.
これらは非常に質の高いコホートですが,実臨床の多様な患者さんを完全に代表しているわけではありません.
年齢,人種・民族,併存疾患,腎機能,脳血管障害,混合病理,薬剤などが,血液バイオマーカーに影響する可能性があります.
そのため,多様な集団での再現性確認が必要です.

また,AD病理はアミロイドとタウだけで決まるわけではありません.
高齢者では,レビー小体病理,TDP-43,血管病変,海馬硬化,炎症などが重なることがあります.
PETステージや血液ステージと臨床症状が完全に一致しない場合もあります.
論文でも,生物学的ステージと臨床ステージのずれには,併存病理が関係する可能性があるとされています.

それでも,この研究の意義は大きいと思います.

これまでの血液バイオマーカー研究では,「アルツハイマー病病理があるかどうか」を検出することが主な目的でした.
しかし,これからはそれだけでは足りません.

抗アミロイド抗体薬が使われる時代には,
その人がAD病理を持っているか,
どの段階にいるか,
タウがどこまで広がっているか,
治療の利益とリスクのバランスはどうか,
臨床試験ではどの層を対象にすべきか,
を考える必要があります.

この論文は,血液バイオマーカーが「診断」だけでなく,「ステージング」にも使える可能性を示しています[1].

これは,アルツハイマー病診療の考え方を変えるかもしれません.

たとえば,将来的には,まず血液で%p-tau217を測り,アルツハイマー病病理の可能性を評価する.
さらにeMTBR-tau243を加えて,タウ凝集病理がどの程度進んでいるかを推定する.
その結果に応じて,PETや脳脊髄液検査を追加するか,治療適応を詳しく検討するか,臨床試験に紹介するかを決める.

このような流れができれば,PETやCSFをすべての人に行わなくても,より効率的にアルツハイマー病の病態を層別化できるかもしれません.

もちろん,まだ研究段階です.
現時点では,この血液ステージングをそのまま日常診療で使う段階ではありません.
でも,方向性としては非常に重要です.

この研究を読んで感じるのは,アルツハイマー病の血液バイオマーカーが,単なるスクリーニング検査から,より精密な病態評価へ進んでいるということです.

p-tau217は,アルツハイマー病病理を見つける力が強い.
eMTBR-tau243は,タウ凝集病理の進行を反映する可能性がある.
この2つを組み合わせることで,アミロイドとタウの両方を血液から読み取ろうとしている.

これは,かなり大きな一歩だと思います.

アルツハイマー病は,単に「ある・ない」で終わる病気ではありません.
どこまで進んでいるのか.
どの病理が強いのか.
どの治療のタイミングなのか.
その人の将来の進行リスクはどのくらいなのか.

これからの診療では,こうした問いに答える必要があります.
そのためには,血液バイオマーカーも,単なる陽性・陰性から,ステージングへ進む必要があります.

今回の研究は,その可能性を示しています.

血液でアミロイドを見る.
血液でタウ凝集を見る.
血液で病期を推定する.
そして,必要な人にPETや脳脊髄液検査をつなげる.
治療や臨床試験の対象者を,より適切に選ぶ.

このような未来が,少し現実に近づいているのかもしれません.

アルツハイマー病の診断は,症状から生物学へ進んできました.
そして今,生物学的診断は,侵襲的で高価な検査から,血液でより広く使える形へ進もうとしています.

ただし,血液検査が簡単になるほど,慎重な解釈が必要です.
血液で分かることと,分からないことを分ける必要があります.
ステージを推定できることと,その人の臨床経過を完全に予測できることは同じではありません.
PETやCSF,臨床評価,認知機能,画像,生活機能を組み合わせて考える必要があります.

それでも,この論文は,血液バイオマーカーの可能性を大きく広げています.

アルツハイマー病の血液検査は,
「病気があるか」を見る時代から,
「病気がどこまで進んでいるか」を見る時代へ進んでいくのかもしれません.

そのとき,%p-tau217とeMTBR-tau243の組み合わせは,とても重要な手がかりになると思います.

参考文献

[1] Salvadó G, Horie K, Barthélemy NR, Schindler SE, Janelidze S, Orduña Dolado A, et al. Plasma eMTBR-tau243 and %p-tau217 for Biological Staging of Alzheimer Disease. JAMA Neurology. 2026 May 26. doi:10.1001/jamaneurol.2026.1405. PMID: 42189519.

[2] Jack CR Jr, Andrews JS, Beach TG, Buracchio T, Dunn B, Graf A, et al. Revised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer's disease: Alzheimer's Association Workgroup. Alzheimer's & Dementia. 2024;20(8):5143-5169. doi:10.1002/alz.13859. PMID: 38934362.

[3] Barthélemy NR, Salvadó G, Schindler SE, He Y, Janelidze S, Collij LE, et al. Highly accurate blood test for Alzheimer's disease is similar or superior to clinical cerebrospinal fluid tests. Nature Medicine. 2024;30(4):1085-1095. doi:10.1038/s41591-024-02869-z. PMID: 38382645.

[4] Horie K, Salvadó G, Barthélemy NR, Janelidze S, Li Y, He Y, et al. CSF MTBR-tau243 is a specific biomarker of tau tangle pathology in Alzheimer's disease. Nature Medicine. 2023;29(8):1954-1963. doi:10.1038/s41591-023-02443-z. PMID: 37443334.

[5] Horie K, Salvadó G, Koppisetti RK, Janelidze S, Barthélemy NR, He Y, et al. Plasma MTBR-tau243 biomarker identifies tau tangle pathology in Alzheimer's disease. Nature Medicine. 2025;31(6):2044-2053. doi:10.1038/s41591-025-03617-7. PMID: 40164726.

[6] Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, Lu M, Ardayfio P, Sparks J, et al.; TRAILBLAZER-ALZ 2 Investigators. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330(6):512-527. doi:10.1001/jama.2023.13239. PMID: 37459141.