アルツハイマー病というと,多くの場合は高齢になってから発症する病気,という印象が強いかもしれません.

でも,アルツハイマー病の中には,65歳未満で発症する若年発症アルツハイマー病があります.
さらにその一部には,家系内で発症が続く,遺伝性の強いタイプがあります.

これまで,こうした家族性・若年発症アルツハイマー病では,APP,PSEN1,PSEN2という3つの原因遺伝子がよく知られてきました.
これらの遺伝子の変異は,アミロイドβの産生や処理を変化させ,アルツハイマー病の発症に強く関わります.

しかし,臨床の現場では,もう一つ大きな問題があります.

家系内で若くしてアルツハイマー病を発症しているのに,APP,PSEN1,PSEN2に明らかな変異が見つからないことがあります.
つまり,「遺伝性が疑われるのに,既知の原因遺伝子では説明できない」症例があるのです.

この「説明できない遺伝」を探すことが,今回の Cyril Pottier先生の研究を理解するうえで重要なテーマだと思います.

Pottier先生の代表的な論文としてまず挙げたいのが,2012年にMolecular Psychiatryに発表された “High frequency of potentially pathogenic SORL1 mutations in autosomal dominant early-onset Alzheimer disease” です[1].

この研究は,APP,PSEN1,PSEN2に変異が見つからなかった常染色体優性若年発症アルツハイマー病の家系に対して,全エクソーム解析を行ったものです.

最初に解析されたのは,既知の3遺伝子で説明できない14家系のindex caseでした.
その中で,5例にSORL1の未知の変異が見つかりました.
内訳は,ナンセンス変異が1つ,ミスセンス変異が4つでした.
さらに,15例のreplication sampleを解析したところ,追加で2つのSORL1非同義変異が見つかりました.

つまり,合計29例の既知遺伝子陰性の常染色体優性若年発症アルツハイマー病症例のうち,7例にSORL1の未知変異が見つかったことになります.
これらの変異は,同じ民族背景の1500人の対照では認められませんでした.

この結果は,当時とても重要でした.

なぜなら,SORL1が,単なる遅発性アルツハイマー病のリスク遺伝子というだけでなく,一部の若年発症・家族性アルツハイマー病において,より強い影響を持つ可能性を示したからです.

SORL1は,sortilin-related receptor 1をコードする遺伝子です.
タンパク質としてはSORLA,あるいはLR11とも呼ばれます.
このSORLAは,APPの細胞内輸送に関わります.

ここが大切です.

APPは,どの細胞内経路を通るかによって,アミロイドβを生みやすい方向にも,生みにくい方向にも進みます.
SORL1はAPPの輸送を制御し,APPがアミロイドβを産生しやすい経路に入りすぎないように働くと考えられています.
そのため,SORL1の機能が落ちると,APP処理がアミロイド産生側に傾き,アルツハイマー病リスクが高まる可能性があります.

この考え方は,その後の大規模研究でも支持されていきました.

2016年のMolecular Psychiatry論文では,484人のフランス人若年発症アルツハイマー病患者と498人の対照を対象に,全エクソーム解析を用いてSORL1 rare variantsの影響が調べられました[2].
その結果,minor allele frequency 1%以下のrare variantsをまとめて解析すると,disruptive variantsおよびpredicted damaging missense variantsが患者群で有意に多いことが示されました.
オッズ比は5.03,95%信頼区間は2.02–14.99,p値は7.49 × 10^-5でした.

さらに,家族歴のある205例に限定すると,関連はより強くなりました.
この場合のオッズ比は8.86,95%信頼区間は3.35–27.31,p値は3.82 × 10^-7でした.

この数字は,SORL1が若年発症アルツハイマー病,特に家族歴を持つ症例において,かなり強いリスク因子であることを示しています.

この一連の研究から見えてくるのは,若年発症アルツハイマー病の遺伝は,APP,PSEN1,PSEN2だけでは説明しきれないということです.

もちろん,APP,PSEN1,PSEN2は非常に重要です.
でも,それ以外にも,APPの輸送,エンドソーム,リソソーム,免疫,グルタミン酸,細胞内シグナルなど,さまざまな経路が若年発症アルツハイマー病に関わっている可能性があります.

この流れは,Pottier先生の最近の研究にもつながっています.

2025年のAlzheimer’s & Dementia論文では,若年発症アルツハイマー病を対象に,より大規模で多民族の遺伝学的解析が行われました[3].
この研究では,early-onset Alzheimer’s disease,EOADに関連する新しい遺伝子を探索し,gene-based analysis,eQTL,pQTL,機能アノテーションを組み合わせています.

結果として,8つの新しい有意なlociが同定されました.
そのうち6つはancestry-specific analysisで,2つはtrans-ancestry analysisで見つかりました.
さらに,機能的な解釈から,これらの候補遺伝子は,ミクログリア活性化,グルタミン酸産生,細胞内シグナル伝達経路に関わる可能性が示されています.

ここでも,重要なのは「若年発症アルツハイマー病は,遅発性アルツハイマー病と同じではない」という点です.

もちろん,EOADとLOADには共通する遺伝的背景もあります.
しかし,EOADにはEOAD特有の遺伝子や経路がある可能性があります[3].
若年発症という臨床的特徴は,単に発症年齢が早いだけではなく,病気を動かしている分子経路が少し違う可能性を示しているのかもしれません.

Pottier先生の研究の面白さは,このように「若年発症」「家族性」「既知遺伝子で説明できない症例」に注目するところにあります.

多くのアルツハイマー病研究では,高齢発症の大規模コホートが中心になります.
もちろんそれは非常に重要です.
しかし,若年発症例や家族性例には,病気を引き起こす力の強い遺伝的要因が隠れている可能性があります.

そのような症例を丁寧に調べることで,アルツハイマー病全体の病態を理解する手がかりが得られます.

これは,遺伝性疾患だけの話ではありません.

たとえば,SORL1がAPP輸送に関わることは,家族性若年発症アルツハイマー病だけでなく,より一般的なアルツハイマー病の病態にも関係します.
APPがどこで切断されるのか.
エンドソームやリソソームの機能がどう変わるのか.
アミロイドβの産生や分解がどのように変化するのか.

こうした問いは,孤発性アルツハイマー病にもつながります.

そして,Pottier先生の最新の重要論文として,2026年にThe Lancet Neurologyに発表された “Identification of genetic modifiers of autosomal dominant Alzheimer’s disease” があります[4].

この研究では,常染色体優性アルツハイマー病,ADADを対象に,疾患のリスクや発症年齢を変える遺伝的修飾因子を探索しています.

ADADは,APP,PSEN1,PSEN2の病的変異によって起こる,ほぼ完全浸透に近いアルツハイマー病です.
一見すると,原因遺伝子が分かっているため,病気の出方もかなり決まっているように見えます.

しかし,実際にはそうではありません.

同じADAD変異を持っていても,発症年齢や臨床経過には差があります.
同じ家系内でも,ある人は早く発症し,ある人は遅く発症することがあります.

では,その違いはどこから来るのでしょうか.

この研究は,その問いに対して,原因遺伝子以外の遺伝的要因,つまりgenetic modifiersを探したものです.

解析では,Knight-ADRC,DIAN observational study,ADSP R4のデータが用いられました.
discovery cohortでは,症状のあるADAD変異保因者101人と,ADAD変異を持たない対照5050人が解析されました.
さらに,関連者を含めた感度分析では,ADAD症例148人と対照5813人が含まれました.

全ゲノム解析の結果,ADADリスクと関連する3つの新しいlociが同定されました.
それが,CNIH4,CCNG1,RHOJです.

まず,CNIH4 locusでは,rs74546314というミスセンス変異が関連していました.
この変異はGly54Serを引き起こすとされ,オッズ比は11.99,95%信頼区間は5.39–26.64でした.
かなり大きな効果量です.

次に,CCNG1 locusです.
rs537168961というリスクアレルは,ADADリスク上昇と関連しており,オッズ比は9.56,95%信頼区間は4.29–21.24でした.
さらに重要なのは,この変異が認知症発症年齢を平均で約10年早める方向に関連していたことです.
線形モデルではβ = −10.15,95%信頼区間は−17.31から−2.77,p = 0.0068でした.

また,CCNG1 risk alleleは,血漿TDP-43濃度や,MRIから推定されるbrain age gapとも関連していました.
これは,ADADの発症年齢の違いに,TDP-43病理や神経変性の加速が関わる可能性を示しています.

さらに,RHOJ locusも重要です.
rs141931440というリスクアレルは,ADADリスク上昇と関連し,オッズ比は5.96,95%信頼区間は3.42–10.36でした.
このアレルを持つDIAN参加者では,脳脊髄液total tauが高く,p-tau181も高く,Aβ42/Aβ40比が低いことが示されました.
具体的には,total tauはβ = 358.37,p = 0.0056,p-tau181はβ = 81.28,p = 0.0006,Aβ42/Aβ40比はβ = −0.11,p = 0.016でした.

これは,RHOJ risk alleleが,より進んだアルツハイマー病病理と関係する可能性を示しています.

この研究の面白さは,ADADのような強い原因遺伝子を持つ病気でも,それだけですべてが決まるわけではない,という点です.

APP,PSEN1,PSEN2は病気の大きな方向性を決めます.
しかし,その病気がどれくらい早く出るのか,どの病理が強く出るのか,どのように進行するのかには,ほかの遺伝的要因も関わる可能性があります.

つまり,ADADは「単一遺伝子疾患」としてだけではなく,「強い原因変異に,さらに修飾因子が重なる病気」として見る必要があるのかもしれません.

これは,Pottier先生の研究の流れとよく一致しています.

2012年のSORL1研究では,既知の原因遺伝子で説明できない若年発症・家族性アルツハイマー病に,新しい遺伝的要因を探しました[1].
2025年のEOAD研究では,多民族・大規模データを用いて,若年発症アルツハイマー病に関わる新しい遺伝子と経路を探しました[3].
そして2026年のADAD genetic modifiers研究では,既知の強い原因変異を持つ人の中で,病気の出方を変える遺伝的要因を探しました[4].

この3つを並べると,Pottier先生の研究の軸がよく見えます.

病気の原因を,一つの遺伝子だけで考えない.
若年発症例や家族性例の中に,まだ見つかっていない遺伝的要因を探す.
遺伝子を見つけるだけでなく,その先にある経路,つまりAPP trafficking,エンドソーム・リソソーム,ミクログリア,グルタミン酸,TDP-43,タウ,アストロサイト,血管新生,フェロトーシスを考える.
そして,それを治療標的やバイオマーカーにつなげようとする.

この視点は,これからのアルツハイマー病研究にとってとても重要だと思います.

アルツハイマー病の遺伝研究というと,APOE ε4やGWASのリスク遺伝子を思い浮かべる人が多いかもしれません.
もちろん,それらは大切です.
しかし,若年発症や家族性の症例には,まれだけれど効果の大きい遺伝的要因が隠れていることがあります.

そうした遺伝子を見つけることは,単にその家系の診断に役立つだけではありません.
病気の仕組みを理解する手がかりになります.

たとえば,SORL1はAPPの細胞内輸送という経路を示しました.
CCNG1はTDP-43や発症年齢との関係を示しました.
RHOJはタウ,アミロイド比,アストロサイト,血管新生との関係を示しました.
CNIH4はフェロトーシスや細胞内輸送との関係を考える入口になります.

つまり,遺伝子を見つけることは,病態の入口を見つけることでもあります.

もちろん,注意点もあります.

ADAD genetic modifiersの研究では,最大規模とはいえ,ADAD自体がまれな病気であるため,症例数には限界があります[4].
また,解析対象は主にヨーロッパ系の参加者であり,他の集団でも同じ結果が当てはまるかは,今後の検証が必要です.
さらに,CNIH4やALKのようなシグナルについては,winner’s curseや再現性の問題も慎重に考える必要があります.

SORL1についても,同じです.
SORL1のprotein-truncating variantsはかなり強い病的意義を持つと考えられますが,missense variantsの解釈は簡単ではありません.
どのドメインにあるのか,機能にどう影響するのか,家系内でどう分離するのか,集団頻度はどうか,機能解析で何が示されるのかを総合的に考える必要があります.

それでも,この研究の方向性はとても重要です.

アルツハイマー病は,一つの経路だけで説明できる病気ではありません.
アミロイド,タウ,脂質代謝,免疫,エンドソーム,リソソーム,シナプス,血管,細胞死,TDP-43,アストロサイト,ミクログリアが複雑に関わっています.

Pottier先生の研究は,その複雑さを,遺伝学からほどいていく研究だと思います.

若年発症例を見ることで,強い遺伝的要因を探す.
家族性例を見ることで,病気の鍵になる経路を探す.
ADADを見ることで,原因変異がある中でも病気の出方を変える要因を探す.
そして,見つかった遺伝子から,治療標的やバイオマーカーにつながる生物学を考える.

この流れは,まさにprecision medicineの考え方に近いです.

将来的には,アルツハイマー病を診るときに,単に「ADかどうか」だけではなく,
どの遺伝的背景を持っているのか,
どの病態経路が強いのか,
発症年齢を早める要因があるのか,
保護的な要因があるのか,
どの治療標的がその人に合うのか,
を考える時代が来るかもしれません.

そのためには,若年発症例や家族性例を丁寧に調べる研究が必要です.
そして,そのデータを大規模ゲノム解析,バイオマーカー,画像,オミクスデータと組み合わせる必要があります.

Pottier先生の研究は,その方向を示していると思います.

アルツハイマー病の遺伝は,APP,PSEN1,PSEN2で終わりではありません.
APOEだけでもありません.
SORL1のようなrare variantsがあり,EOAD特有の経路があり,ADADの発症年齢を変えるmodifierがあります.

その一つ一つを見つけることで,アルツハイマー病の見え方は少しずつ変わっていきます.

病気を引き起こす遺伝子.
病気を早める遺伝子.
病気を遅らせる遺伝子.
病態を強くする経路.
治療標的になりうる分子.

それらを探し続けることが,アルツハイマー病をより個別に理解するための第一歩なのだと思います.

Dr. Cyril Pottierの研究は,その「見えない遺伝」を探す研究です.
そして,その先に,若年発症アルツハイマー病や家族性認知症の診断,遺伝カウンセリング,治療標的探索,予防研究がつながっていくのだと思います.

参考文献

[1] Pottier C, Hannequin D, Coutant S, Rovelet-Lecrux A, Wallon D, Rousseau S, et al. High frequency of potentially pathogenic SORL1 mutations in autosomal dominant early-onset Alzheimer disease. Molecular Psychiatry. 2012;17(9):875-879. doi:10.1038/mp.2012.15. PMID: 22472873.

[2] Nicolas G, Charbonnier C, Wallon D, Quenez O, Bellenguez C, Grenier-Boley B, et al. SORL1 rare variants: a major risk factor for familial early-onset Alzheimer’s disease. Molecular Psychiatry. 2016;21(6):831-836. doi:10.1038/mp.2015.121. PMID: 26303663.

[3] Bradley J, Pottier C, da Fonseca EL, Kurup JT, Western D, Wang C, et al. Novel early-onset Alzheimer-associated genes influence risk through dysregulation of glutamate, immune activation, and intracellular signaling pathways. Alzheimer’s & Dementia. 2025;21(6):e70377. doi:10.1002/alz.70377. PMID: 40556318.

[4] Patel M, Feng W, Mckay NS, Millar PR, Liu M, Yang C, et al. Identification of genetic modifiers of autosomal dominant Alzheimer’s disease: a genome-wide association study. The Lancet Neurology. 2026;25(6):581-590. doi:10.1016/S1474-4422(26)00123-7. PMID: 42127933.