ここ1〜2年で,アルツハイマー病の診療は少しずつ変わってきています.
これまでは,アルツハイマー病の背景にあるアミロイド病理をしっかり確かめようと思うと,髄液検査やアミロイドPETのような,やや負担の大きい検査が必要でした.でも最近は,血液バイオマーカー,とくに p-tau217 を使って,もっと早い段階で病理を推定できるのではないか,という流れが強くなってきています[1-4].
今回,私がとくに興味深いと思ったのは,2026年に報告された日本の多施設研究です.この研究では,日本の7つの物忘れ外来で332人を前向きに集めて,血液中の p-tau217 や p-tau217/Aβ42比 が,脳内のアミロイド病理をどれくらい正確に反映するかを調べています.その結果,これらの指標は高い診断性能を示し,PETを基準にしたAUCは0.9を超えていました.また,血液検査の結果はPETや髄液所見とも高い一致を示していました[1].
この結果が大事なのは,「血液検査だけですべてがわかる」という意味ではなく,診断の入り口が変わるかもしれない ことを示している点だと思います.同じ研究では,まず血液バイオマーカーで振り分けることで,PETや髄液検査の実施を約40%減らせる可能性も示されました[1].最初から全員に負担の大きい検査を行うのではなく,まず血液検査で見当をつけて,本当に必要な人に次の検査を進める.そんな流れが現実的になってきたのだと感じます.
この流れは,日本だけの話ではありません.2025年に報告された物忘れ外来コホートの研究でも,血漿p-tau217はアミロイド陽性と陰性を AUC 0.95 で見分けており,初期の振り分けに使うことで,腰椎穿刺やPETを大きく減らせる可能性が示されています[2].また,別の前向き研究では,自動化プラットフォームで測定したp-tau217が安定して高い性能を保ち,実地臨床で使ううえでの再現性や扱いやすさも検討されていました[3].研究室の中の話ではなく,実際の外来でどう使うか,という段階に入ってきているのが,いまの大きな変化なのだと思います.
ただし,ここで誤解してはいけないのは,血液検査だけでアルツハイマー病の診断が完結するわけではない ということです.日本の研究でも,PETや髄液と食い違う症例は一定数あり,著者らも慎重な解釈が必要だと述べています[1].また,最近の総説でも,p-tau217は非常に有望なバイオマーカーである一方,混合病理や非アルツハイマー型認知症との区別,測定系の違いなどを踏まえて使う必要があると整理されています[4].つまり,血液検査はとても心強い道具になりつつありますが,それだけですべてを決める最終判断ではない,ということです.
それでも,この変化の意味はとても大きいと思います.アルツハイマー病の診療は,これまで「症状が出てから,時間をかけて,ようやく背景病理に近づく」ものでした.でもこれからは,「まず血液で病理を推定し,必要な人に次の検査や治療をつなぐ」という時代に入っていくのかもしれません[1,4].新しい薬の話題が注目されやすい時代ですが,同じくらい大事なのは,誰を,どうやって見つけるのか という診断の変化なのだと思います.その意味で,今回の論文は,これからのアルツハイマー病診療を考えるうえで,とても示唆の多い研究だと感じました.
[1] Ishiguro T, Kurihara M, Nishida Y, et al. Prospective study on clinical utility of plasma p-Tau217 and other biomarkers in Japanese memory clinics using the LUMIPULSE platform. Alzheimers Res Ther. 2026;18:81.
[2] Martínez-Dubarbie F, Guerra-Ruiz A, López-García S, et al. Diagnostic performance of plasma p-tau217 in a memory clinic cohort using the Lumipulse automated platform. Alzheimers Res Ther. 2025;17(1):68. PMID: 40140924.
[3] Arranz J, Ferrer R, Zhu N, et al. Prospective evaluation of plasma pTau217 stability for the detection of Alzheimer's disease in a tertiary memory clinic. Alzheimers Res Ther. 2025;17(1):150. PMID: 40618130.
[4] Ashton NJ, Zetterberg H. A blood test for Alzheimer’s disease: a decade of progress and success. EBioMedicine. 2025;112:105545. PMID: 39778288.