高血圧は,脳卒中や心筋梗塞だけでなく,認知症とも関係します.

血圧が高い状態が長く続くと,脳の細い血管が傷つきます.
白質病変が増える.
微小梗塞が起こる.
脳血流の調節が乱れる.
その結果,認知機能が少しずつ低下していく可能性があります.

そのため,血圧を適切に管理することは,認知症予防においても重要です.

ただし,ここで難しい問いがあります.

血圧は,どこまで下げればよいのでしょうか.

「低ければ低いほどよい」と考えてよいのでしょうか.
それとも,年齢,腎機能,心血管疾患,代謝異常などによって,適切な目標は変わるのでしょうか.

今回紹介する論文は,この問いに対して,かなり実践的な視点を与えてくれます.
2026年に Alzheimer’s & Dementia に発表された “Cardiovascular–kidney–metabolic syndrome stage modifies the efficacy of intensive blood pressure control on cognitive outcomes: A post hoc analysis of SPRINT MIND” です[1].

この研究は,SPRINT MINDの事後解析です.
SPRINT MINDは,高血圧患者において,収縮期血圧を120 mmHg未満に下げる集中的血圧管理と,140 mmHg未満を目標にする標準的血圧管理を比較し,認知機能への影響を調べた重要な試験です[2].

SPRINT MINDの元の結果では,集中的血圧管理はMCIの発症を有意に減らしました.
一方で,主要評価項目であるprobable dementiaについては,有意な減少を示しませんでした[2].

つまり,血圧をしっかり下げることは認知機能に良さそうだが,認知症そのものを減らす効果は明確ではない,という少し複雑な結果でした.

今回の論文は,この「なぜprobable dementiaでは明確な効果が出なかったのか」という問いに,CKM syndromeという新しい枠組みから答えようとしています[1].

CKM syndromeとは,cardiovascular–kidney–metabolic syndromeの略です.
日本語にすると,心血管・腎・代謝症候群です.

これは,American Heart Associationが提唱した概念で,肥満,糖代謝異常,脂質異常,高血圧,慢性腎臓病,心血管疾患などを,ばらばらの病気としてではなく,相互に関連する一つの病態として捉えるものです[3].

CKMの考え方では,病態をstage 0からstage 4に分類します.
stageが進むほど,代謝異常や腎障害,心血管障害が積み重なっている状態になります.

今回の研究では,SPRINT MINDの参加者を,CKM stageに基づいて2群に分けました.

一つは,non-advanced CKMです.
これはStage 2に相当し,高血圧や代謝異常などはあるものの,進行した心血管・腎・代謝障害まではない群です.

もう一つは,advanced CKMです.
これはStage 3–4に相当し,潜在的または臨床的な心血管疾患,高リスク腎疾患,高い10年心血管リスクなどを持つ群です.

解析対象は,認知機能評価データが利用可能だった8,563人でした.
そのうち5,632人,65.77%がnon-advanced CKM,2,931人,34.23%がadvanced CKMに分類されました[1].

SPRINT全体では9,361人がランダム化されましたが,今回の解析では認知機能データがない798人が除外されています.
図1では,9,361人から798人を除外し,8,563人をCKM stageで分類した流れが示されています.
non-advanced CKMでは,集中的血圧管理群2,788人,標準血圧管理群2,844人でした.
advanced CKMでは,集中的血圧管理群1,490人,標準血圧管理群1,441人でした[1].

この研究の主要評価項目は,新規発症のprobable dementiaです.
副次評価項目は,MCIと,probable dementiaまたはMCIの複合アウトカムです.

まず,ベースラインの特徴を見ると,集中的血圧管理群と標準血圧管理群の背景は,それぞれのCKM群内でよくバランスしていました.
これは,元のSPRINTがランダム化試験であるためです.

一方で,non-advanced CKMとadvanced CKMを比べると,advanced CKM群の方が年齢が高く,男性が多く,腎機能が低く,心血管リスクが高い集団でした.
表1では,advanced CKM群の平均年齢が約70歳,non-advanced CKM群の平均年齢が約66歳であることが示されています.
また,MoCAスコアもadvanced CKM群でやや低い傾向がありました[1].

調整前のアウトカムだけを見ると,non-advanced CKM群では集中的血圧管理により認知イベントが少なくなっていました.
probable dementiaは,標準群3.94%に対して集中的治療群2.40%でした.
MCIは7.88%に対して5.95%,probable dementiaまたはMCIは10.44%に対して7.78%でした[1].

一方,advanced CKM群では様子が違いました.
probable dementiaは,標準群4.44%に対して集中的治療群5.50%でした.
MCIは8.95%に対して8.12%,複合アウトカムは11.94%に対して12.42%でした[1].

つまり,non-advanced CKMでは集中的血圧管理がよさそうに見える一方,advanced CKMでは同じような利益が見えませんでした.

より重要なのは,多変量調整後の解析です.

年齢,性別,人種,教育歴,喫煙,BMI,拡張期血圧,HDL,LDL,中性脂肪,PREVENT 10年心血管リスク,健康状態,身体活動,frailty indexなどを調整したCox解析では,non-advanced CKM群で集中的血圧管理がprobable dementiaのリスクを有意に低下させていました.
ハザード比は0.62,95%信頼区間0.46–0.85でした[1].

これは,non-advanced CKMの高血圧患者では,収縮期血圧120 mmHg未満を目標とする集中的管理が,probable dementiaの発症リスクを約38%低下させた,と解釈できます.

一方,advanced CKM群では,probable dementiaに対するハザード比は1.15,95%信頼区間0.82–1.61でした.
つまり,明らかな利益は見られませんでした[1].

さらに重要なのは,治療効果とCKM stageの交互作用です.
probable dementiaについて,treatment × CKM stage interactionは有意で,p = 0.009でした[1].

これは,集中的血圧管理の効果が,CKM stageによって異なる可能性を示します.
言い換えると,「血圧を強く下げることの認知症予防効果」は,すべての高血圧患者で同じではなく,心血管・腎・代謝の進行度によって変わるかもしれない,ということです.

複合アウトカムでも,方向性は同じでした.
non-advanced CKM群では,集中的血圧管理によりprobable dementiaまたはMCIのリスクが低下していました.
ハザード比は0.74,95%信頼区間0.62–0.89でした.
一方,advanced CKM群ではハザード比0.97,95%信頼区間0.78–1.19で,明らかな利益はありませんでした[1].

ただし,MCI単独については,交互作用は有意ではありませんでした.
MCIに対するtreatment × CKM stage interactionは,ハザード比スケールでp = 0.455,絶対リスクスケールでp = 0.604でした[1].

この違いは重要です.
MCIは非常に heterogeneous な状態です.
アルツハイマー病に進行するMCIもあれば,血管性,うつ,薬剤,睡眠障害,あるいは一過性の要因に関連するMCIもあります.
そのため,MCIをすべてまとめて解析すると,病態特異的な治療効果が薄まる可能性があります.

図2では,CKM stageごとのKaplan–Meier曲線が示されています.
probable dementia,MCI,複合アウトカムのすべてで,advanced CKM群はnon-advanced CKM群より認知イベントが多い傾向がありました.
また,集中的血圧管理による曲線の改善は,non-advanced CKM群でより明瞭でした[1].

図3のフォレストプロットを見ると,この違いがさらに分かりやすくなります.
probable dementiaでは,全体解析のハザード比は0.88で有意ではありませんでした.
しかし,non-advanced CKMに分けるとハザード比0.62で有意になります.
advanced CKMではハザード比1.15で,利益は見られません.

つまり,SPRINT MIND全体でprobable dementiaが有意に減らなかった理由の一つは,効果のある群と効果のない群が混ざっていたからかもしれません.

これは,臨床的にとても重要です.

同じ高血圧でも,体の状態は人によって違います.
高血圧だけが主な問題の人もいます.
一方で,慢性腎臓病,心不全,動脈硬化,心房細動,末梢動脈疾患などをすでに持っている人もいます.

前者では,血圧をしっかり下げることで,将来の脳血管障害や認知症リスクを下げられるかもしれません.
しかし後者では,すでに血管や腎臓,心臓にダメージが蓄積しており,血圧を下げるだけでは認知症予防に十分ではない可能性があります.

さらに,advanced CKMの人では,過度な血圧低下が脳灌流を悪化させる可能性も考えられます.
高齢で動脈硬化が強い人,腎機能が低い人,心血管疾患がある人では,脳血流の自動調節が低下しているかもしれません.
そのような状態で血圧を強く下げると,理論的には脳への血流が不足し,認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります.

もちろん,今回の研究だけで「advanced CKMでは集中的血圧管理が危険」と断定することはできません.
しかし,少なくとも,認知症予防という観点では,すべての高血圧患者に同じ血圧目標を当てはめるのではなく,CKM stageのような全身状態を考慮する必要があることを示しています.

この研究のメッセージは,「血圧を下げなくてよい」ということではありません.

高血圧管理は,心血管疾患予防にも,脳卒中予防にも,認知症予防にも重要です.
実際,近年の大規模クラスターランダム化試験でも,血圧を130/80 mmHg未満に管理することが認知症リスク低下と関連することが示されています[4].

ただし,血圧管理の利益は,患者背景によって異なる可能性があります.
特に,心血管・腎・代謝障害が進んだ人では,単純に強く下げるだけでは十分でないかもしれません.
場合によっては,腎機能,起立性低血圧,脳血管狭窄,frailty,転倒リスク,薬剤数などを含めて,より慎重な個別化が必要です.

CKM stageは,その個別化に使える可能性があります.

CKM stageのよい点は,高血圧だけでなく,腎臓,代謝,心血管疾患をまとめて見られることです.
認知症予防を考えるときも,血圧だけを見ていると不十分です.
糖代謝,腎機能,アルブミン尿,脂質,心不全,動脈硬化,frailtyなどが,脳の健康に影響します.

この論文は,CKM stageが「誰が集中的血圧管理から認知的利益を得やすいか」を考える手がかりになる可能性を示しています[1].

ただし,限界もあります.

第一に,これはSPRINT MINDのpost hoc解析です.
つまり,最初からCKM stageごとの治療効果を検証するように設計された研究ではありません.
したがって,今回の結果は仮説生成的に解釈すべきです.

第二に,SPRINT MINDではベースラインのMCI状態が正式に判定されていませんでした.
全員がprobable dementiaではないことは確認されていますが,ランダム化時点ですでにMCIだった人が含まれていた可能性があります.
著者らは,追跡2年以内にMCIを発症した人を除外する感度分析を行い,主要な結果が保たれることを確認していますが,完全には解決できません[1].

第三に,SPRINTは2型糖尿病や脳卒中既往のある人を除外しています.
しかし,糖尿病や脳卒中はCKM syndromeの中核的な要素です.
そのため,今回の結果を,実臨床のより複雑なCKM患者全体にそのまま当てはめることはできません.

第四に,CKM stage分類に必要なすべての情報がSPRINTにそろっていたわけではありません.
詳細な心臓画像や一部のバイオマーカーが不足しているため,CKM stageの誤分類が起きた可能性があります.

第五に,中央値3.26年という追跡期間は,認知症予防効果を十分に評価するには短いかもしれません.
認知症は何年も,場合によっては何十年もかけて発症するため,長期的な影響は別途検証が必要です.

それでも,この研究は非常に重要です.

なぜなら,血圧管理による認知症予防を,単に「効くか効かないか」ではなく,誰に効きやすいのか という視点で見直しているからです.

SPRINT MIND全体では,probable dementiaへの効果は有意ではありませんでした.
しかし,CKM stageで分けると,non-advanced CKMではprobable dementiaのリスクが有意に低下していました.
一方,advanced CKMでは利益が見られませんでした.

これは,認知症予防には「タイミング」があることを示しているように思います.

血管,腎臓,代謝の障害がまだ進みきっていない段階であれば,血圧をしっかり管理することで脳を守れるかもしれません.
しかし,障害がすでに進行している段階では,血圧だけを強く下げても,認知機能を守るには不十分かもしれません.
むしろ,より包括的な介入が必要になる可能性があります.

たとえば,advanced CKMの人では,血圧だけでなく,腎機能保護,糖代謝管理,脂質管理,心不全管理,運動,栄養,frailty対策,睡眠,うつ,社会的孤立への介入が必要かもしれません.
認知症予防は,単一の数値目標だけではなく,全身の病態を見た包括的な管理として考える必要があります.

この論文の臨床的なメッセージは,次のようにまとめられると思います.

血圧管理は大切です.
ただし,集中的に下げる利益は,すべての人で同じではありません.
心血管・腎・代謝障害がまだ進んでいない段階では,集中的血圧管理が認知症予防に有効かもしれません.
一方,CKMが進行した段階では,血圧だけを強く下げても十分な認知的利益は得られないかもしれません.

つまり,認知症予防では,血圧の値だけでなく,その人の全身状態を見る必要があります.

これは,日本の高齢者診療にもかなり関係すると思います.

高血圧の高齢者は多いです.
慢性腎臓病を合併している人も多いです.
糖尿病,心房細動,心不全,脂質異常症,脳血管病変,frailtyを併せ持つ人も少なくありません.

そのような人に対して,単純に「収縮期血圧を120未満へ」と考えるのではなく,CKM stageのような枠組みで,全身のリスクと治療目標を考える必要があります.

早い段階で介入すること.
進行した段階では,血圧だけに頼らないこと.
認知症予防を,全身管理の一部として考えること.

この論文は,その重要性を示していると思います.

アルツハイマー病や認知症の予防は,脳だけを見ていても不十分です.
血管,腎臓,代謝,心臓,身体機能がすべて関係します.
そして,それらの状態によって,同じ血圧治療でも効果が変わる可能性があります.

血圧をどこまで下げるべきか.
その答えは,血圧の数字だけでは決まりません.
その人のCKM stage,つまり心血管・腎・代謝の状態を見て,考える必要があるのかもしれません.

参考文献

[1] Wang Z, Pei J, Sun T, Ge S, Wu T, Yin Y, Wang H, Yang J, Zheng K. Cardiovascular–kidney–metabolic syndrome stage modifies the efficacy of intensive blood pressure control on cognitive outcomes: A post hoc analysis of SPRINT MIND. Alzheimer’s & Dementia. 2026;22:e71623. doi:10.1002/alz.71623.

[2] The SPRINT MIND Investigators for the SPRINT Research Group. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321(6):553-561. doi:10.1001/jama.2018.21442.

[3] Ndumele CE, Rangaswami J, Chow SL, Neeland IJ, Tuttle KR, Khan SS, et al. Cardiovascular-Kidney-Metabolic Health: A Presidential Advisory From the American Heart Association. Circulation. 2023;148(20):1606-1635. doi:10.1161/CIR.0000000000001184.

[4] He J, Zhao C, Zhong S, Luo R, Qian F, Li T, et al. Blood pressure reduction and all-cause dementia in people with uncontrolled hypertension: An open-label, blinded-endpoint, cluster-randomized trial. Nature Medicine. 2025;31(6):2054-2061. doi:10.1038/s41591-025-03616-8.

[5] Jiang X, Bahorik AL, Dintica CS, Yaffe K. Cardiovascular-kidney-metabolic syndrome and incidence of dementia among older adults. The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease. 2025;12(5):100112. doi:10.1016/j.tjpad.2025.100112.