アルツハイマー病の研究では,画像検査がとても重要です.

アミロイドPET.
タウPET.
MRI.
脳萎縮の評価.
白質病変や微小出血の評価.
そして,抗アミロイド抗体薬の時代には,治療前後の安全性評価.

画像検査は,アルツハイマー病を「見える形」にしてくれます.

脳の中にアミロイドβがたまっているか.
タウがどこまで広がっているか.
萎縮がどの領域にあるか.
血管病変がどの程度あるか.

こうした情報は,診断にも研究にも臨床試験にも欠かせません.

しかし,画像研究には,あまり目立たないけれど重要な問題があります.

それは,解析に使えないデータがある という問題です.

PETを撮影していても,対応するMRIがない.
MRIは撮影されていても,画像処理がうまくいかない.
自動segmentationが失敗する.
頭部の動きやアーチファクトがある.
白質病変や脳萎縮が強く,解析ソフトが領域をうまく同定できない.
MRI禁忌があって,そもそもMRIを撮れない.

このような場合,定量的なPET解析では,その参加者のデータが除外されることがあります.

一見すると,これは単なる技術的な問題に見えるかもしれません.
でも,今回紹介する論文は,この「技術的な除外」が,実は研究の一般化可能性に関わる重要な問題であることを示しています.

論文のタイトルは,“Features predicting data exclusion in imaging studies of Alzheimer’s disease” です.
2026年に Alzheimer’s & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring に発表された研究です[1].

この論文の問いは,とても実践的です.

アミロイドPET研究で,MRIがない,あるいはMRI解析が失敗するために除外される人たちは,ランダムに除外されているのでしょうか.
それとも,年齢,血管病変,うつ,認知症状など,特定の特徴を持つ人たちが除外されやすいのでしょうか.

もし後者であれば,問題は深刻です.

なぜなら,解析に残った人たちだけを見ていると,実際の臨床集団よりも若く,健康で,血管病変が少なく,画像がきれいに処理できる人たちに偏ってしまう可能性があるからです.
その結果,研究結果が,実際の患者さん全体に当てはまりにくくなるかもしれません.

今回の研究では,複数のアルツハイマー病研究センターやコホートから,画像,臨床,認知機能,社会人口学的データが集められました.
最初に集められたデータは2119人分でした.
年齢の中央値は70.5歳で,年齢範囲は41.9歳から93.9歳でした.
データには,Washington UniversityのKnight ADRC,Emory University ADRC,University of Alabama at Birmingham ADRC,University of Pennsylvania ADRC,Harvard Aging Brain Study,SEABIRD,Wisconsin関連コホートなどが含まれていました[1].

このような多施設データを使って,研究チームは,従来のMRI依存型PET定量と,MRIを使わないMR-free PET定量を比較しました.

ここで少し背景を整理します.

アミロイドPETでは,脳内のアミロイド蓄積量を定量化するために,脳の領域を正確に決める必要があります.
そのため,多くの解析ではMRIを使って,皮質領域や参照領域を定義します.
そして,PET信号を標準化して,Centiloidという単位で表すことがあります.

Centiloidは,アミロイドPETの定量値を標準化するための尺度です.
簡単に言えば,異なるPETトレーサーや解析方法で得られたアミロイド量を,比較しやすい共通スケールにするためのものです[2].

しかし,従来型のPET定量にはMRIが必要になることが多いです.
MRIがなければ,PET画像をどの領域で定量するかを正確に決めにくくなります.
また,MRIがあっても,FreeSurferのような自動segmentationが失敗すると,信頼できる領域情報が得られません.

そのため,PET自体は撮れているのに,定量解析から除外されることがあります.

今回の研究では,この除外がどのくらい起きているかを調べました.
その結果,MR-dependent解析では,約19.5%,つまり405人が除外される可能性があることが示されました[1].

これはかなり大きな割合です.

5人に1人近くが,PETを撮っていても解析から外れる可能性があるということです.
もしこの除外が完全にランダムなら,統計的な問題として処理できるかもしれません.
でも,もし特定の特徴を持つ人が除外されやすいなら,研究結果そのものが偏ります.

そして,この研究の重要な結論は,まさにそこにあります.

データ除外は,完全にはランダムではありませんでした.
年齢と脳血管関連の併存症が,複数の施設で一貫してデータ除外と関係していました.
さらに,臨床症状,血管併存症,うつなども除外と関連する特徴として示されています[1].

これは,とても重要です.

高齢である人.
血管病変がある人.
臨床症状がある人.
うつがある人.

こうした人たちは,アルツハイマー病診療では決して珍しくありません.
むしろ,実臨床では非常に重要な集団です.
高齢者には脳血管病変が重なることが多く,白質病変や小梗塞,微小出血を持つ人もいます.
認知症患者さんでは,アルツハイマー病病理だけでなく,血管病変やレビー小体病理など,複数の病理が重なることもあります.

それにもかかわらず,画像解析上の理由で,そうした人たちが研究から外れやすいとしたら,研究に残る集団は,実際の患者さんよりも「きれいな」集団になる可能性があります.

これは,アルツハイマー病研究の一般化可能性に関わる問題です.

一般化可能性とは,研究で得られた結果が,研究参加者以外の現実の患者さんにも当てはまるかどうかということです.
アルツハイマー病研究では,この問題は以前から指摘されてきました.
たとえば,ADNIのような研究コホートは非常に豊富なデータを持っていますが,地域住民ベースの集団と比べると,参加者の特徴が異なる可能性があります[3].

また,アルツハイマー病研究や治療試験では,人種・民族,教育,社会経済状況,医療アクセスの違いによって,参加できる人と参加しにくい人が生まれます[4].
疾患修飾薬の臨床試験でも,厳しい適格基準が,参加者の多様性や実臨床への適用可能性に影響することが指摘されています[5].

今回の論文は,そこにもう一つの視点を加えています.

それは,画像解析の都合で生まれる選択バイアス です.

研究に参加できたかどうかだけではありません.
検査を受けたかどうかだけでもありません.
検査を受けたあと,そのデータが解析に残るかどうかにも,バイアスが入りうるのです.

これは,かなり見えにくい問題です.

論文を読むとき,私たちはよく,参加者数や平均年齢,性別,診断分類を見ます.
しかし,そこに載っているのは,最終的に解析に使われた人たちです.
途中で除外された人がどのような人だったのかは,あまり注目されません.

でも,除外された人たちが,研究対象として重要な特徴を持っていたらどうでしょうか.

血管病変がある人が除外されやすい.
高齢者が除外されやすい.
臨床症状がある人が除外されやすい.
うつのある人が除外されやすい.

そのような場合,最終的な解析結果は,実際の高齢者医療の複雑さを十分に反映していないかもしれません.

この問題は,抗アミロイド抗体薬の時代にさらに重要になります.

抗アミロイド抗体薬では,アミロイド関連画像異常,ARIAが重要な副作用です.
ARIAのリスクを考えるうえで,脳血管病変,微小出血,白質病変,抗凝固薬,APOE ε4などは重要です.
つまり,血管病変を持つ人たちは,治療の安全性を考えるうえで非常に重要な集団です.

しかし,もし画像研究で血管病変を持つ人たちが除外されやすいなら,安全性や実装に関する知見が,実臨床で最も慎重に扱うべき人たちに十分届かない可能性があります.

これは単なる方法論の問題ではありません.
治療を誰に安全に届けられるのかという問題です.

今回の論文では,MR-free PET解析という方法も検討されています.
MR-free PETとは,MRIに依存せずにPETを定量する方法です.
つまり,MRIがない場合や,MRI segmentationが失敗した場合でも,PETからアミロイド量を定量しようとする方法です.

研究では,MR-free PETによるCentiloidと,従来のMR-dependent PETによるCentiloidの一致が評価されました.
結果として,両者はおおむね一致していました.
ただし,MR-free Centiloidは,横断的にも縦断的にも,MR-dependent Centiloidを過小評価する傾向がありました[1].

これは,非常に実践的な結果です.

MR-free PETは,従来法で除外されるデータを救う可能性があります.
MRIがないから,あるいはsegmentationが失敗したからといって,すぐにPETデータを捨てなくてよくなるかもしれません.
特に大規模多施設研究では,これは大きな利点です.

一方で,MR-free PETは従来法と完全に同じではありません.
過小評価の傾向があるため,単純に同じ値として扱うことはできません.
トレーサー,施設,解析パイプライン,縦断評価の目的に応じて,補正や検証が必要になります.

つまり,MR-free PETは「従来法の完全な代替」というより,従来法を補う方法として考えるのが適切です.

この研究の面白さは,派手な新規バイオマーカーを提案しているわけではないところにあります.

新しい薬を発見した研究ではありません.
新しい血液検査を開発した研究でもありません.
タウやアミロイドの新しい病態機序を示した研究でもありません.

でも,とても重要です.

なぜなら,研究の土台にある「誰のデータが解析されているのか」という問題を扱っているからです.

アルツハイマー病研究では,いま血液バイオマーカー,PET,抗体薬,デジタル認知評価,AI解析などが急速に進んでいます.
でも,どれほど高度な解析をしても,入力されるデータが偏っていれば,結論も偏ります.

研究に残る人と,研究から外れる人.
画像がきれいに処理できる人と,処理できない人.
MRIを受けられる人と,受けられない人.
血管病変が少ない人と,多い人.
健康な高齢者と,併存疾患を持つ高齢者.

この違いを意識しなければ,アルツハイマー病研究は,実臨床の複雑さから離れてしまう可能性があります.

特に,日本の臨床を考えても,この視点は重要です.

高齢の認知症患者さんには,高血圧,糖尿病,脂質異常症,心房細動,脳梗塞の既往,白質病変などが重なることが多いです.
MRIで微小出血が見つかることもあります.
脳萎縮が強い人もいます.
動きが多く,きれいな画像が撮れないこともあります.
ペースメーカーなどでMRIが難しい人もいます.

このような人たちは,実臨床では非常に重要です.
しかし,研究の解析では外れやすい可能性があります.

もしそのことを意識せずに,研究結果だけをそのまま臨床へ当てはめると,実際の患者さんに対して過度に楽観的,あるいは不正確な判断をしてしまうかもしれません.

この論文は,その危険を教えてくれます.

アルツハイマー病研究では,「どの検査が正確か」という問いがよく出てきます.

血液p-tau217はどのくらい正確か.
アミロイドPETはどのくらい正確か.
MRIで萎縮をどこまで評価できるか.
AIで診断できるか.

でも,その前に問うべきことがあります.

その検査や解析は,誰に対して成り立っているのか.
誰のデータで検証されたのか.
誰が除外されたのか.
除外された人たちは,臨床的に重要な人たちではなかったのか.

この問いは,地味ですが,本質的です.

今回の研究では,MR-dependent解析で約19.5%のデータが除外される可能性がありました.
そして,その除外は完全にはランダムではなく,年齢や脳血管関連の特徴と関係していました.
さらに,MR-free PETを使うことで,従来法では失われるデータの一部を定量できる可能性が示されました[1].

この結果から考えられる実践的な示唆は,いくつかあります.

第一に,画像研究では,除外されたデータの特徴を報告することが重要です.
単に「解析可能だった人数」だけでなく,「解析できなかった人たちがどのような人だったのか」を示す必要があります.

第二に,MRI依存型のPET解析だけに頼ると,特定の参加者が落ちやすくなる可能性があります.
大規模多施設研究では,MR-free PETのような補助的な解析方法を検討する価値があります.

第三に,除外バイアスは,統計解析だけでは完全に解決できません.
研究デザイン,撮像プロトコル,画像処理パイプライン,参加者リクルート,欠測データ処理を含めて考える必要があります.

第四に,抗アミロイド治療の時代には,血管病変を持つ人のデータを失わないことが特に重要です.
なぜなら,その人たちは安全性評価や治療実装において重要な集団だからです.

この論文は,アルツハイマー病研究の「見えない穴」を示した研究だと思います.

私たちは,論文に載っている結果を読みます.
平均値を見ます.
p値を見ます.
AUCを見ます.
治療効果を見ます.
バイオマーカーの精度を見ます.

でも,その背後には,解析されなかったデータがあります.
使えなかったPETがあります.
失敗したMRI segmentationがあります.
MRIが撮れなかった人がいます.
そして,その人たちは,高齢で,血管病変があり,臨床的に複雑な人たちかもしれません.

研究の外に置かれた人たちを見ること.
それは,アルツハイマー病研究をより臨床に近づけるために必要な視点です.

この論文のメッセージは,とてもシンプルです.

データ除外は,単なる技術的な処理ではない.
除外は,研究結果の一般化可能性を変える.
そして,誰が除外されているのかを見なければ,私たちは研究の限界を正しく理解できない.

アルツハイマー病研究は,いま大きく進んでいます.
抗アミロイド抗体薬が登場し,血液バイオマーカーが進歩し,PETやMRIの解析も高度になっています.
その一方で,研究が高度になるほど,解析に必要な条件も増えます.
その条件に合わない人たちが,知らないうちに研究から外れていく可能性があります.

だからこそ,これからの研究では,「より精密に測る」ことと同じくらい,「より多くの人を含める」ことが重要です.

きれいなデータだけでなく,現実の患者さんに近いデータを扱うこと.
解析しやすい人だけでなく,臨床的に複雑な人を含めること.
除外されたデータを見えないものにしないこと.

それが,アルツハイマー病研究の公平性と一般化可能性を高めることにつながります.

今回の論文は,そのための大切な一歩だと思います.

参考文献

[1] Flores S, Scott J, Lu R, Su Y, Keefe SJ, Smith TH, Hornbeck RC, McKay NS, Strain JF, Simmons A, Dombrowski K, Rizzo J, Shimony H, Bateman RJ, Babulal GM, Landau SM, Jagust W, Wolk DA, Lah J, Gleason C, Johnson S, Roberson ED, Sperling R, Johnson K, Morris JC, Xiong C, Gordon BA, Benzinger TLS. Features predicting data exclusion in imaging studies of Alzheimer’s disease. Alzheimer’s & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring. 2026;18(2):e70389. doi:10.1002/dad2.70389. PMID: 42339065; PMCID: PMC13283902.

[2] Klunk WE, Koeppe RA, Price JC, Benzinger TLS, Devous MD Sr, Jagust WJ, et al. The Centiloid Project: standardizing quantitative amyloid plaque estimation by PET. Alzheimer’s & Dementia. 2015;11(1):1-15.e1-4. doi:10.1016/j.jalz.2014.07.003. PMID: 25443857.

[3] Gianattasio KZ, Bennett EE, Wei J, Mehrotra ML, Mosley TH, Gottesman RF, Wong DF, Griswold ME, Couper D, Jack CR Jr, Power MC. Generalizability of findings from a clinical sample to a community-based sample: a comparison of ADNI and ARIC. Alzheimer’s & Dementia. 2021;17(8):1265-1276. doi:10.1002/alz.12293. PMID: 33527720; PMCID: PMC8359773.

[4] Babulal GM, Quiroz YT, Albensi BC, Arenaza-Urquijo E, Astell AJ, Babiloni C, et al. Perspectives on ethnic and racial disparities in Alzheimer’s disease and related dementias: update and areas of immediate need. Alzheimer’s & Dementia. 2019;15(2):292-312. doi:10.1016/j.jalz.2018.09.009. PMID: 30555031; PMCID: PMC6368893.

[5] Franzen S, Smith JE, van den Berg E, Rivera Mindt M, van Bruchem-Visser RL, Abner EL, et al. Diversity in Alzheimer’s disease drug trials: the importance of eligibility criteria. Alzheimer’s & Dementia. 2022;18(4):810-823. doi:10.1002/alz.12433. PMID: 34590409.