アルツハイマー病というと,「もの忘れが始まってからの病気」という印象が強いかもしれません.
でも最近は,治療の話題が広がる一方で,「病気をどれだけ早く見つけられるか」がこれまで以上に大切になっています[1,2].
その中で,ここ数年大きく進んできたのが血液バイオマーカーです.特に血液中の p-tau217 などは,脳の中のアルツハイマー病理をかなり高い精度で反映できることが示されており,髄液検査に近い,あるいはそれ以上の性能が報告される段階にまで来ています[2,3].
そんな流れの中で,2026年の Annals of Neurology に掲載された論文は,とても興味深い問いを立てました.
それは,アルツハイマー病はいったい何歳ごろから始まるのか,という問いです[4].
この研究では,4つの国際コホートにまたがる1,450人のデータを使って,血液中の Aβ42/40 比と Aβ-PET の変化を重ね合わせて解析しています.その結果,血液中の Aβ42/40 は,ゆっくり少しずつ変わるというより,Aβ-PET が約15 Centiloid に達する手前で急に変化し始めることが示されました.そして,その平均的な「病気の始まりの年齢」は 66歳 と推定されました[4].
さらに興味深いのは,血液中の Aβ42/40 が異常化するのは,平均すると Aβ-PET で異常が見える約2年前 だったことです.また,APOE ε4 を持つ人では,その変化がより早い年齢で起こり,非保有者と比べておよそ 7年の差 があると報告されています[4].
この論文の面白さは,「アルツハイマー病は長い時間をかけて静かに進む」というこれまでの理解に加えて,血液検査でみると,ある時点で段差のように変化が現れるかもしれないと示したところにあります[4].
もちろん,ここで気をつけたいのは,この 66歳 という数字は,あくまで集団全体の平均的なモデルから推定された値であって,「この年齢になったらその人のアルツハイマー病が始まる」と個人レベルで断言できるわけではない,ということです.それでも,「血液の変化がどのくらい早く現れるのか」を考えるうえで,非常に示唆に富んだ研究だと思います[4].
アルツハイマー病の診療は,いま「症状が出てから考える」時代から,「症状が出る前の変化をどう捉えるか」を考える時代へ動いています[1-3].
今回の論文は,その変化をとてもわかりやすい形で見せてくれるものでした.
アルツハイマー病は,もしかすると私たちが思っているよりもずっと前から,そして血液の中ではもっと早い段階から,始まりのサインを出しているのかもしれません[4].
[1]The Lancet Neurology. Dementia diagnosis in the anti-amyloid era. Lancet Neurol. 2024;23(3):219. PMID: 38365360.
[2]Hansson O, Blennow K, Zetterberg H, Dage JL. Blood biomarkers for Alzheimer’s disease in clinical practice and trials. Nat Aging. 2023;3(5):506-519. PMID: 37202517.
[3]Barthélemy NR, Horie K, Sato C, et al. Highly accurate blood test for Alzheimer’s disease is similar or superior to clinical cerebrospinal fluid tests. Nat Med. 2024;30(4):1085-1095. PMID: 38382645.
[4]Cánovas R, Cox T, Doré V, et al. When Does Alzheimer's Disease Start? Plasma Aβ42/40 Assays Show Steep Changes at Aβ-PET Centiloid 15, Mean Age of 66 Years. Ann Neurol. 2026. PMID: 41586468. doi:10.1002/ana.78163.