アルツハイマー病の研究では,アミロイドβという言葉をよく聞きます.

アミロイドβが脳にたまる.
その後,タウ病理が広がる.
神経細胞やシナプスが傷つく.
そして,認知機能が少しずつ低下していく.

もちろん,アルツハイマー病はアミロイドだけで説明できる病気ではありません.
タウ,神経炎症,血管病変,代謝異常,遺伝的背景,生活習慣など,多くの要因が関係します.

それでも,アミロイドβの蓄積は,アルツハイマー病の生物学を考えるうえで中心的な出来事です.
特に近年は,アミロイドPET,脳脊髄液バイオマーカー,血液バイオマーカーの発展により,「症状が出る前からアミロイド蓄積を捉える」ことが可能になってきました.

では,そもそも,なぜアミロイドがたまりやすい人がいるのでしょうか.
その背景には,どのような遺伝的要因があるのでしょうか.

今回紹介する論文は,この問いに大規模データで答えようとした研究です.
2026年に Brain に発表された “Combining post-mortem and neuroimaging measures of brain amyloidosis to accelerate genomic discovery” です[1].

この研究の特徴は,アミロイド蓄積を調べるために,生前のアミロイドPET と 死後脳病理 の両方を統合した点です.

アミロイドPETは,生きている人の脳内アミロイド蓄積を画像として評価できます.
一方,死後病理は,亡くなった後の脳組織を直接調べる方法で,長い間アルツハイマー病診断のゴールドスタンダードとされてきました.

この2つは,どちらもアミロイド病理を見ています.
しかし,同じものをまったく同じ方法で測っているわけではありません.

PETは,生前のある時点でのアミロイド沈着を画像として捉えます.
死後病理は,亡くなった時点での脳組織を顕微鏡で評価します.
時間も違えば,測定法も違います.
PETで見えるアミロイドと,病理で評価される神経斑の密度は,重なる部分もありますが,完全に同じではありません.

この研究では,この違いをむしろ利用しています.
別々の方法で測られたアミロイド蓄積を統合することで,より大きなサンプルサイズを確保し,アミロイドがたまりやすい遺伝的背景を探そうとしています.

対象は,欧州系の13,555人です.
これは,脳アミロイド蓄積そのものを対象としたGWASとして,これまでで最大規模とされています[1].

ここでGWASとは,genome-wide association studyの略です.
日本語では,ゲノムワイド関連解析と呼ばれます.
多数の人のゲノム情報を調べ,ある特徴を持つ人と持たない人で,どの遺伝的変異が多いかを探索する方法です.

従来のアルツハイマー病GWASでは,「アルツハイマー病と診断された人」と「対照者」を比較することが多くありました.
これは非常に重要な方法ですが,診断名にはさまざまな要素が含まれます.

アミロイドがあるか.
タウがあるか.
脳血管病変があるか.
レビー小体病理があるか.
認知予備能がどのくらいあるか.
教育歴や生活背景はどうか.
臨床診断がどの程度正確か.

つまり,「アルツハイマー病 dementia」という臨床診断をアウトカムにすると,アミロイド以外の多くの要素も一緒に入ってきます.

今回の研究では,そこを少し分解しています.
診断名ではなく,脳にアミロイドがたまっているかどうか をアウトカムにしています.

これは,とても重要です.

アルツハイマー病の遺伝学を考えるとき,
「認知症になりやすい遺伝子」
と
「アミロイドがたまりやすい遺伝子」
は,完全には同じではない可能性があります.

ある遺伝子は,アミロイド蓄積を強く促すかもしれません.
別の遺伝子は,アミロイドがあってもタウが広がりにくくするかもしれません.
また別の遺伝子は,神経炎症やシナプス障害,認知予備能に関係するかもしれません.

そのため,アミロイド蓄積そのものを直接対象にすることで,アルツハイマー病の早い病理過程に関わる遺伝子を見つけやすくなる可能性があります.

この研究では,生前PETのデータと,死後病理のデータが使われました.

PETコホートでは,アミロイドPETの値を用いて,アミロイド陽性か陰性かが分類されました.
PETトレーサーやコホートによって分布が異なるため,各コホートでGaussian mixture model,GMMを使い,陽性・陰性を分けるカットオフを推定しています.

アミロイドPETの定量では,Centiloidという標準化尺度も重要な役割を持ちます.
Centiloidは,異なるトレーサーや解析法で得られたアミロイドPET値を比較しやすくするための枠組みです[2].

一方,死後病理では,CERADスコアが使われました.
CERADは,アルツハイマー病の臨床・神経心理・病理評価を標準化するために作られた枠組みです.
この研究では,死後病理コホートにおいて,中等度または高度のneuritic plaquesをアミロイド陽性として扱っています[3].

つまり,PETでは生前の画像上のアミロイド蓄積を,死後病理では顕微鏡で見た神経斑を使って,アミロイド陽性を定義したわけです.

このようにして,研究チームはアミロイド蓄積をアウトカムにしたGWASを行いました.

結果として,まず既知のアルツハイマー病リスク座位が確認されました.
具体的には,BIN1,CR1,APOE です.

BIN1のrs6733839は,オッズ比1.20,95%信頼区間1.14–1.26,P = 1.32×10^-11でした.
CR1のrs4844610は,オッズ比1.24,95%信頼区間1.16–1.32,P = 4.21×10^-10でした.
APOEのrs429358は,オッズ比4.01,95%信頼区間3.66–4.38,P = 4.54×10^-201でした[1].

APOEの効果が非常に強いことは,やはり印象的です.
APOE ε4はアルツハイマー病の代表的な遺伝的リスク因子ですが,この研究でも脳アミロイド蓄積と強く関連していました.

一方で,BIN1やCR1も検出されています.
BIN1は細胞膜輸送やエンドサイトーシス,タウ病理との関連が議論されてきた遺伝子です.
CR1は補体系や免疫応答に関わる遺伝子です.
これらがアミロイド蓄積GWASでも出てくることは,アミロイド病理と免疫・細胞内輸送系がつながっている可能性を示しています.

従来の大規模AD GWASでも,免疫,脂質代謝,エンドサイトーシス,アミロイド処理などに関わるリスク座位が同定されてきました[4].
さらに,より大規模な解析では,アルツハイマー病および関連認知症の遺伝的背景として,多数のリスク座位と複数の生物学的経路が整理されています[5].

今回の研究は,そうした「診断名」を対象にしたGWASとは少し違い,アミロイド蓄積そのものをendophenotypeとして見ている点に特徴があります.

endophenotypeとは,病気そのものではなく,病気に関連する中間的な生物学的特徴を指します.
アルツハイマー病でいえば,認知症という臨床診断ではなく,アミロイド蓄積,タウ蓄積,海馬萎縮,血液p-tau上昇などがendophenotypeになります.

この研究で最も新しい発見は,染色体17番上の新規バリアントです.

研究チームは,rs35635959 という新しい脳アミロイド蓄積関連バリアントを同定しました.
オッズ比は1.18,95%信頼区間1.12–1.25,P = 1.47×10^-8でした[1].

オッズ比1.18というと,効果量としては決して大きくありません.
APOEのような強い効果ではありません.
しかし,13,555人という大規模データで,アミロイド蓄積そのものに関連する新しい遺伝的シグナルとして見つかった点に意味があります.

さらに研究チームは,この領域のfine-mappingを行いました.
SuSiEという手法を用いた解析で,15個の候補バリアントからなるcredible setが得られ,その中でrs35635959がlead variantとされました.

次に,このバリアントがどの遺伝子に関係しているのかを調べるために,eQTL解析とcolocalization解析が行われました.

eQTLとは,ある遺伝的変異が,特定の遺伝子の発現量に影響するかを調べる解析です.
つまり,その変異が「どの遺伝子のスイッチの強さ」に関わっているかを見る方法です.

その結果,rs35635959は TUBG2 の強いeQTLとして優先されました[1].
TUBG2は,tubulin gamma 2をコードする遺伝子です.
チューブリンは微小管に関わるタンパク質で,微小管は細胞内輸送,神経突起,シナプス機能などに深く関係します.

アルツハイマー病では,タウが微小管安定化に関わるタンパク質であることを考えると,微小管関連遺伝子がアミロイド蓄積GWASから出てくるのは興味深い結果です.
ただし,ここで注意が必要です.
この研究は,TUBG2がアミロイド蓄積を直接引き起こすことを証明したわけではありません.
あくまで,遺伝的関連,発現量との関連,共局在解析から,TUBG2が候補遺伝子として優先されたという段階です.

さらに,死後脳の発現データを用いた解析では,背外側前頭前野のニューロンにおいて,TUBG2発現低下がAβ burdenの増加やAD症例であることと関連していました.
この関連は,FDR補正後P < 0.045と報告されています[1].

この結果は,TUBG2が単なる統計上の候補ではなく,脳内のアミロイド病理やAD状態と生物学的につながっている可能性を示します.
ただし,これも因果関係を確定するものではありません.
今後,細胞モデルや動物モデルで,TUBG2の発現変化がアミロイド処理,細胞内輸送,シナプス機能にどう影響するのかを検証する必要があります.

この論文のもう一つの重要な点は,PETと死後病理が,どの程度同じ遺伝的背景を共有しているかを調べたことです.

研究チームは,遺伝的共分散解析を行いました.
その結果,アミロイドPETと死後病理のアミロイド指標の間には, modest ではあるものの有意な遺伝的共分散が見られました.
共分散は0.17,P < 6.54×10^-8でした.

さらに,APOE領域を除外しても,共分散は0.16,P < 1.32×10^-7と,ほとんど保たれていました[1].

これは重要です.

APOEはアミロイド蓄積に非常に強く関わります.
そのため,PETと死後病理の遺伝的重なりが,単にAPOEだけで説明されている可能性も考えられます.
しかし,APOE領域を除いても共分散が残ったということは,PETと死後病理は,APOE以外の遺伝的背景も一定程度共有している可能性があります.

一方で,共分散は0.17であり,非常に高いわけではありません.
これは,PETと死後病理が完全に同じものを測っているわけではないことも示しています.

この点はとても大切です.

PETは生前の画像です.
死後病理は亡くなった時点の組織評価です.
PETトレーサーが結合するアミロイドと,病理で評価されるneuritic plaquesは似ていますが,同一ではありません.
年齢,疾患ステージ,死後までの時間,混合病理,測定誤差,コホートの違いも影響します.

つまり,両者には共通部分もあれば,違いもあるのです.

この研究の価値は,その違いを無視して一緒にしたことではありません.
むしろ,違いがあることを認めたうえで,互換性のあるアミロイドendophenotypeとして統合し,遺伝的シグナルを検出する力を高めた点にあります.

この視点は,今後ますます重要になると思います.

なぜなら,アルツハイマー病の治療は,より早期へ向かっているからです.
抗アミロイド抗体薬は,アミロイド病理がある早期ADを対象に使われます.
予防試験や発症前介入を考えるなら,認知症になる前のアミロイド蓄積を正確に理解する必要があります.

そのとき,アミロイドがたまりやすい遺伝的背景を知ることは,発症前リスク層別化,臨床試験デザイン,病態理解に役立つ可能性があります.

ただし,この研究の結果を読むときには,いくつか注意も必要です.

第一に,対象は欧州系の参加者に限られています.
13,555人という大規模データではありますが,遺伝的背景が異なる集団にそのまま当てはまるとは限りません.
日本人を含む東アジア人,アフリカ系,ラテンアメリカ系など,多様な集団での検証が必要です.

第二に,この研究はアミロイド蓄積のGWASです.
つまり,見つかった遺伝子が必ずしも認知症発症や進行速度に同じように関係するとは限りません.
アミロイドがたまりやすいことと,認知症になりやすいことは重なりますが,同じではありません.
アミロイドがあっても認知機能を保つ人もいますし,認知機能低下にはタウ,神経変性,血管病変,認知予備能などが関わります.

第三に,新しく同定されたrs35635959とTUBG2の関係は有望ですが,まだ仮説段階です.
遺伝的関連,eQTL,共局在,細胞型特異的発現解析からTUBG2が優先されましたが,機能実験による検証が必要です.
TUBG2がどの細胞で,どの時期に,どのようにアミロイド蓄積へ関与するのかは,今後の課題です.

第四に,PETと死後病理を統合する方法には利点と限界があります.
サンプルサイズは増えますが,測定法の違いによる異質性も増えます.
この研究ではGMMや遺伝的共分散解析を用いてその問題に対処していますが,完全に解消されるわけではありません.

それでも,この研究はとても重要だと思います.

理由は,アミロイド蓄積を「測定法の壁」を超えて統合し,病態そのものに近い遺伝的背景を探したからです.

PETだけではサンプル数が限られます.
死後病理だけでも,生前の早期病態を捉えるには限界があります.
しかし,両者を組み合わせることで,アミロイド蓄積という共通の生物学的特徴に対して,より大きな遺伝学研究が可能になります.

この論文は,アルツハイマー病遺伝学の方向性を示していると思います.

診断名だけでなく,病理を対象にする.
PETだけでなく,病理も使う.
単一コホートではなく,多施設・多コホートを統合する.
統計的関連だけでなく,eQTL,共局在,単核RNA解析,細胞型特異的発現までつなげる.

こうした多層的な解析によって,アルツハイマー病の原因に少しずつ近づいていくのだと思います.

この研究を一言でまとめるなら,
アミロイドがたまるという現象を,画像と剖検の両方から統合し,その遺伝的背景を探した研究
です.

そして,その結果として,APOE,BIN1,CR1という既知のリスク座位が再確認され,新たに染色体17番のrs35635959,そして候補遺伝子としてTUBG2が浮かび上がりました.

アルツハイマー病を理解するには,認知症になった後を見るだけでは不十分です.
症状が出る前に,脳で何が始まっているのかを見る必要があります.
アミロイド蓄積は,その早い出来事の一つです.

今回の論文は,そのアミロイド蓄積がなぜ起こりやすいのかを,遺伝子の側から探した研究です.

アミロイドPETで見る生前の脳.
剖検で見る死後の脳.
そして,ゲノムで見る生まれ持った背景.

この3つをつなぐことで,アルツハイマー病の最初の一歩に関わる分子経路が見えてくるかもしれません.

今後,このようなendophenotypeベースの研究は,タウ蓄積,神経変性,認知的レジリエンス,ARIAリスクなどにも広がっていくと思います.
アルツハイマー病を一つの診断名としてではなく,複数の生物学的過程として分解して調べる時代になっていくのかもしれません.

その意味で,この論文は,アミロイド研究であると同時に,これからのアルツハイマー病遺伝学の方向性を示す研究だと思います.

参考文献

[1] Wang TC, Archer DB, Ali M, Wu Y, Mormino E, Buckley RF, Lee AJ, Saykin AJ, De Jager PL, Schneider JA, Bennett DA, Barnes LL, Vardarajan B, Mayeux R, Kunkle BW, Bush WS, Keene CD, Seshadri S, Sperling RA, Vemuri P, Ramanan VK, Kamboh MI, Harrison TM, Jagust WJ, Laws SM, Schellenberg GD, Huentelman M, Hamilton-Nelson K, Pericak-Vance MA, Goate AM, Haines JL, Montine TJ, Beecham G, Below JE, Cruchaga C, Hohman TJ, Dumitrescu L, et al. Combining post-mortem and neuroimaging measures of brain amyloidosis to accelerate genomic discovery. Brain. 2026 Jun 23;awag216. doi:10.1093/brain/awag216. PMID: 42334898.

[2] Klunk WE, Koeppe RA, Price JC, Benzinger TLS, Devous MD Sr, Jagust WJ, Johnson KA, Mathis CA, Minhas D, Pontecorvo MJ, Rowe CC, Skovronsky DM, Mintun MA. The Centiloid Project: standardizing quantitative amyloid plaque estimation by PET. Alzheimer’s & Dementia. 2015;11(1):1-15.e1-4. doi:10.1016/j.jalz.2014.07.003. PMID: 25443857.

[3] Mirra SS, Heyman A, McKeel D, Sumi SM, Crain BJ, Brownlee LM, Vogel FS, Hughes JP, van Belle G, Berg L. The Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease (CERAD). Part II. Standardization of the neuropathologic assessment of Alzheimer’s disease. Neurology. 1991;41(4):479-486. doi:10.1212/WNL.41.4.479. PMID: 2011243.

[4] Kunkle BW, Grenier-Boley B, Sims R, Bis JC, Damotte V, Naj AC, Boland A, Vronskaya M, van der Lee SJ, Amlie-Wolf A, et al. Genetic meta-analysis of diagnosed Alzheimer’s disease identifies new risk loci and implicates Aβ, tau, immunity and lipid processing. Nature Genetics. 2019;51(3):414-430. doi:10.1038/s41588-019-0358-2. PMID: 30820047.

[5] Bellenguez C, Küçükali F, Jansen IE, Kleineidam L, Moreno-Grau S, Amin N, Naj AC, Campos-Martin R, Grenier-Boley B, Andrade V, et al. New insights into the genetic etiology of Alzheimer’s and related dementias. Nature Genetics. 2022;54(4):412-436. doi:10.1038/s41588-022-01024-z. PMID: 35379992.