アルツハイマー病というと,多くの場合は高齢になってから発症する病気,という印象が強いかもしれません.

でも,アルツハイマー病の中には,より若い年齢で発症し,家系の中で受け継がれるタイプがあります.
これは,常染色体優性アルツハイマー病,ADADと呼ばれます.

ADADでは,APP,PSEN1,PSEN2という遺伝子の変異が原因となります.
これらの変異を持っている人は,比較的若い年齢でアルツハイマー病を発症しやすいことが知られています.

ただ,ここで不思議なことがあります.

同じ遺伝子変異を持っていても,発症する年齢や病気の進み方には差があります.
同じ家系の中で,同じ原因遺伝子を持っていても,ある人は早く発症し,ある人は少し遅く発症することがあります.

では,その違いはどこから来るのでしょうか.

今回紹介する論文は,この問いに対して,「原因遺伝子以外の遺伝的な要素」が関係している可能性を調べた研究です[1].

この研究では,ADADの原因となるAPP,PSEN1,PSEN2の変異を持つ人を対象に,全ゲノム解析を行いました.
対象となったのは,ADADの症状がある101人と,ADADの原因変異を持たない5050人です.
さらに,関連する参加者も含めた感度分析や,脳脊髄液バイオマーカー,血漿タンパク,MRIやPETなどのデータも組み合わせて解析しています.

その結果,新しく3つの遺伝子領域が,ADADのリスクや病態と関連していることが示されました.
それが,CNIH4,CCNG1,RHOJ です.

この研究が興味深いのは,「アルツハイマー病の原因遺伝子があるかどうか」だけを見ているのではない点です.
むしろ,原因遺伝子を持っている人たちの中で,病気の出方をさらに変えるような遺伝的な要素を探しています.

たとえるなら,APP,PSEN1,PSEN2は,病気の大きな方向性を決める遺伝子です.
一方で,今回見つかった遺伝子領域は,その病気がどのような速さで進むのか,どの病態が強く出るのかを変える「修飾因子」のようなものかもしれません.

特に印象的だったのは,CCNG1 に近い領域の変異です.
この変異を持つ人では,認知症の発症年齢が平均で約10年早いことが示されました.
また,この変異は血漿中のTDP-43というタンパク質や,MRIで推定される脳年齢との差とも関連していました.

TDP-43は,前頭側頭葉変性症やALSなどでよく知られているタンパク質ですが,アルツハイマー病でも病態に関係することが分かってきています.
つまり,ADADの発症時期の違いを考えるうえで,アミロイドやタウだけでなく,TDP-43のような別の病理も関係している可能性があります.

もう一つ重要なのが,RHOJ に近い領域です.
この変異を持つ人では,脳脊髄液中の総タウやリン酸化タウ181が高く,Aβ42/Aβ40比が低いことが示されました.
これは,アルツハイマー病の病理がより進んでいることを示す方向の変化です.

RHOJは血管新生やアストロサイトの機能とも関係する可能性があり,この点も面白いところです.
アルツハイマー病というと,どうしても神経細胞,アミロイド,タウに注目しがちです.
でも実際には,アストロサイト,ミクログリア,血管,炎症など,さまざまな細胞や環境が関わっています.

今回の結果は,ADADという非常に遺伝的な影響が強い病気であっても,病気の進み方は一つの遺伝子だけで決まるわけではない,ということを示しています.

これは,家族性アルツハイマー病の遺伝カウンセリングにも関係します.
原因遺伝子の有無だけでなく,発症時期や病態の個人差をどう考えるか.
将来的には,こうした修飾因子の情報が,発症予測や臨床試験のデザインに役立つ可能性があります.

もちろん,今回の研究には注意点もあります.
ADADはまれな病気であるため,最大規模の研究であってもサンプルサイズには限界があります.
また,解析対象は主にヨーロッパ系の参加者であり,他の集団にも同じ結果が当てはまるかは,今後さらに検証が必要です.

それでも,この研究はとても大切な視点を与えてくれます.

アルツハイマー病は,単に「アミロイドがたまる病気」ではありません.
そして,家族性アルツハイマー病であっても,「原因遺伝子だけで全てが決まる病気」でもありません.

同じ原因を持っていても,なぜ人によって病気の出方が違うのか.
その違いを丁寧に見ていくことで,アルツハイマー病の本質に少しずつ近づいていけるのだと思います.

今回見つかったCNIH4,CCNG1,RHOJという遺伝子領域は,すぐに診療で使える検査項目というよりも,これからの研究の入り口です.
でも,こうした入り口が増えることによって,アルツハイマー病をより個別に理解し,より早い段階で介入する未来につながるかもしれません.

病気を「発症したか,していないか」だけで見るのではなく,
その前に何が起きているのか,
なぜ人によって進み方が違うのか,
そして,その違いをどうすれば治療や予防につなげられるのか.

今回の研究は,その問いに向き合うための一歩だと思います.


参考文献

Patel M, Feng W, Mckay NS, et al. Identification of genetic modifiers of autosomal dominant Alzheimer’s disease: a genome-wide association study. The Lancet Neurology. 2026;25(6):581-590. doi:10.1016/S1474-4422(26)00123-7.