認知症予防というと,よく聞く言葉があります.

運動をしましょう.
食事に気をつけましょう.
頭を使いましょう.
血圧や糖尿病を管理しましょう.
人とのつながりを大切にしましょう.

どれも大切なことです.

でも,実際に研究として検証すると,話はそれほど単純ではありません.
生活習慣への介入は,薬のように「この成分を飲めばよい」というものではありません.
運動,栄養,認知トレーニング,血管リスク管理など,いくつもの要素が重なります.
さらに,参加する人の年齢,認知機能,血圧,糖代謝,脂質,生活習慣,もともとの健康状態によっても,効果の出方は変わる可能性があります.

今回紹介する論文は,その点を考えるうえでとても重要な研究です.
日本で行われたJ-MINT研究の二次解析で,血管リスク因子が未治療,または十分にコントロールされていない高齢者では,多因子介入による認知機能への効果がより出やすい可能性 が示されました[1].

J-MINTは,Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementiaの略です.
日本人の軽度認知障害,MCIの高齢者を対象に,認知機能低下を予防できるかどうかを検証した,多施設ランダム化比較試験です[2].

介入の内容は,一つだけではありません.
血管リスク因子の管理,運動,栄養指導,認知トレーニングを組み合わせた,多因子介入です.

この「多因子介入」という考え方は,認知症予防研究ではとても大切です.

認知症のリスクは,一つの要因だけで決まるわけではありません.
高血圧,糖尿病,脂質異常,運動不足,食事,社会的孤立,聴力低下,うつ,教育歴など,さまざまな要因が,人生の長い時間の中で重なっていきます[4].
そのため,認知症を予防するには,一つのリスクだけを変えるのではなく,複数のリスクに同時に働きかける必要があるのではないか,と考えられてきました.

この流れの中で有名なのが,フィンランドで行われたFINGER研究です.
FINGER研究では,食事,運動,認知トレーニング,血管リスク管理を組み合わせた2年間の多因子介入によって,認知機能の維持や改善が期待できることが示されました[3].

J-MINTは,その日本版ともいえる重要な研究です.
ただし,J-MINTの主解析では,介入群と対照群の間で,主要評価項目である認知機能複合スコアの変化に明確な有意差は示されませんでした[2].

ここだけを見ると,「多因子介入は効かなかったのか」と思うかもしれません.

でも,今回の二次解析は,もう少し踏み込んでいます.

大切なのは,介入が全員に同じように効くとは限らない,という視点です.
つまり,「この介入は効くか,効かないか」だけではなく,
どのような人に効きやすいのか
を考える必要があります.

今回の研究では,J-MINT参加者の中でも,未治療またはコントロール不十分な血管リスク因子を持つ人に注目しました[1].
血管リスク因子には,血圧,HbA1c,HDLコレステロール,non-HDLコレステロールなどが含まれます.

つまり,単に「高齢者に運動や栄養指導を行う」という話ではありません.
血圧や糖代謝,脂質といった,もともと介入可能なリスクが残っている人で,認知機能への効果が出やすいのかを調べた研究です.

その結果,未治療またはコントロール不十分な血管リスク因子を持つ人では,多因子介入による認知機能への有益な効果が認められました.
具体的には,血管リスク因子の有無と介入効果との間に有意な交互作用があり,血管リスク因子を持つ人では認知機能スコアの改善方向の差が示されました.

これは,とても臨床的に意味のある結果だと思います.

なぜなら,認知症予防において,「生活習慣を整えましょう」というメッセージは広く使われていますが,実際には,誰に,どの程度,何を優先して介入すべきかは簡単ではないからです.

たとえば,すでに血圧も糖代謝も脂質もよく管理されていて,運動習慣もある人に,さらに強い介入をしても,変化の余地は小さいかもしれません.
一方で,高血圧が十分に管理されていない人,脂質異常が残っている人,糖代謝の問題がある人では,介入によって変えられる余地が大きい可能性があります.

今回の結果は,まさにそのことを示しているように見えます.

認知症予防は,「全員に同じことを勧める」だけでは不十分かもしれません.
むしろ,その人にどのようなリスクが残っているのかを見て,介入の優先順位を考える必要があります.

この研究で興味深いのは,認知機能だけでなく,血管リスク因子そのものにも変化が見られた点です.
未治療またはコントロール不十分な血管リスク因子を持つ人では,介入によって収縮期血圧や脈圧,HDLコレステロール,トリグリセリドなどに有益な変化が示されました[1].

これは,認知症予防を考えるうえで重要です.

脳は,脳だけで生きているわけではありません.
血管から酸素や栄養を受け取り,全身の代謝や炎症,血圧の影響を受けています.
高血圧,糖尿病,脂質異常などの血管リスク因子は,脳小血管病変や脳血流,炎症,血液脳関門の障害などを通じて,認知機能に影響する可能性があります.

アルツハイマー病というと,アミロイドやタウに注目しがちです.
もちろん,それらはとても重要です.
しかし,高齢者の認知機能低下は,アミロイドやタウだけで説明できるものではありません.
血管性変化,生活習慣,代謝,身体活動,栄養,社会的要因などが重なって,その人の認知機能の経過を形づくります[4].

その意味で,今回の研究は,認知症予防をより現実的に考えるための研究だと思います.

「認知症を予防するには何をすればよいですか」と聞かれたとき,私たちはつい,一般的な答えをしたくなります.
運動,食事,睡眠,社会参加,血圧管理.
どれも間違いではありません.

でも本当は,もう一歩踏み込む必要があります.

その人にとって,今いちばん変えられるリスクは何か.
血圧なのか.
糖代謝なのか.
脂質なのか.
運動不足なのか.
食事なのか.
孤立なのか.
睡眠なのか.

そして,そのリスクを変えることで,認知機能の低下をどれだけ遅らせられる可能性があるのか.

今回のJ-MINTの二次解析は,「血管リスクが残っている人ほど,多因子介入の恩恵を受けやすいかもしれない」という,とても実践的なメッセージを示しています[1].

これは,臨床現場にもつながります.

MCIの人を診るとき,認知機能検査や画像検査だけでなく,血圧,糖尿病,脂質異常,体重,運動習慣,食事内容を丁寧に見ることが大切です.
そして,それらを「認知症とは別の問題」として扱うのではなく,認知機能を守るための介入可能な要素として見る必要があります.

たとえば,血圧が高い人には,血圧管理をする.
糖代謝が悪い人には,食事や運動,必要に応じた治療を考える.
脂質異常がある人には,生活習慣や薬物療法を含めて管理する.
運動量が少ない人には,続けられる身体活動を一緒に考える.
栄養が偏っている人には,無理のない食事の改善を考える.

こうした一つ一つは,決して派手な介入ではありません.
でも,認知症予防は,もしかするとそうした地道な積み重ねなのかもしれません.

一方で,この研究を読むときには注意も必要です.

まず,今回の解析は二次解析です.
つまり,最初からこの問いだけを主要目的として設計された試験ではありません.
そのため,結果はとても示唆的ですが,これだけで「血管リスクがあるMCIの人には必ず多因子介入が効く」と断定することはできません.

また,介入の内容は複数の要素を含んでいます.
血管リスク管理,運動,栄養指導,認知トレーニングが組み合わさっているため,どの要素がどの程度効いたのかを完全に分けて考えることは難しいです.

さらに,介入は継続できて初めて意味があります.
運動も,栄養も,認知トレーニングも,短期間だけ頑張ればよいというものではありません.
高齢者一人ひとりの生活環境,身体機能,家族の支援,地域資源,通院のしやすさなどによって,実行可能性は大きく変わります.

それでも,この研究の価値は大きいと思います.

なぜなら,「認知症予防は生活習慣が大切です」という一般論を,もう少し精密にしてくれるからです.

生活習慣介入は,全員に同じように効く魔法ではありません.
しかし,変えられるリスクが残っている人に対して,複数の介入を組み合わせることで,認知機能低下を遅らせる可能性があります[1].

この視点は,これからの認知症予防にとってとても重要です.

認知症予防を,「何となく健康に良いことをする」から,
「その人のリスクに合わせて,変えられる要因に介入する」へ.

この研究は,その方向性を示しているように思います.

特に日本では,高齢者が多く,MCIの人も多く,生活習慣病を抱える人も少なくありません.
その中で,認知症予防を薬だけに頼るのではなく,血管リスク管理,運動,栄養,認知活動を組み合わせて考えることは,とても現実的なアプローチです.

もちろん,生活習慣介入だけですべての認知症を防げるわけではありません.
アルツハイマー病の病態には,アミロイド,タウ,神経炎症,遺伝的要因なども関わります.
抗アミロイド抗体薬のような疾患修飾薬も,今後さらに重要になっていくと思います.

でも,だからといって,血圧や糖代謝や脂質を軽視してよいわけではありません.
むしろ,薬物療法が進む時代だからこそ,その人の全身状態や生活習慣を整えることの意味は,さらに大きくなるかもしれません.

認知症予防は,脳だけを見るものではありません.
血管を見る.
代謝を見る.
身体活動を見る.
食事を見る.
生活を見る.
そして,その人が無理なく続けられる形を一緒に考える.

今回のJ-MINTの研究は,そのような実践に近い認知症予防のあり方を教えてくれているように思います.

「何をするか」だけではなく,
「誰に,どのタイミングで,どのリスクに対して行うか」.

認知症予防は,これからますます個別化されていくのかもしれません.


参考文献

[1] Sugimoto T, Uchida K, Yokoyama Y, Onoyama A, Noma H, Arai H, Sakurai T; J-MINT study group. Efficacy of a multidomain intervention in older adults with vascular risks: The Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia (J-MINT). Alzheimer’s & Dementia. 2025;21(11):e70822. doi:10.1002/alz.70822. PMID: 41222037.

[2] Sakurai T, Sugimoto T, Akatsu H, et al.; J-MINT study group. Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia: A randomized controlled trial. Alzheimer’s & Dementia. 2024. doi:10.1002/alz.13838. PMID: 38646854.

[3] Ngandu T, Lehtisalo J, Solomon A, et al. A 2 year multidomain intervention of diet, exercise, cognitive training, and vascular risk monitoring versus control to prevent cognitive decline in at-risk elderly people (FINGER): a randomised controlled trial. Lancet. 2015;385(9984):2255-2263. doi:10.1016/S0140-6736(15)60461-5. PMID: 25771249.

[4] Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. doi:10.1016/S0140-6736(24)01296-0. PMID: 39096926.